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 山の郵便配達

2001年4月

VPOSTMEN IN THE MOUNTAINS

山の郵便配達

  • 監督:フォ・ジェンチイ
  • 原作:ポン・ヂェンミン(『山の郵便配達』集英社刊)
  • 脚本:ス・ウ
  • 作曲:ワン・シャオフォン
  • 出演:トン・ルゥジュン、リュウ・イェ、ジャオ・シィウリ

1999年中国映画、1時間33分

  • 1999年中国・金鶏作品賞、主演男優賞受賞
  • 1999年モントリオール世界映画祭「観客賞」受賞
  • 優秀映画鑑賞会特薦、日本映画ペンクラブ推薦、東京都知事推奨

中国の山岳地帯の緑美しい大自然を背景に、親子の情、人と人との思いやりを言葉少なに描いたすばらしい作品です。だれの心にもある清らかさに触れ、ひたひたと暖かさがこみあげてきます。ロングで上映していますので、ぜひご覧になってください。……ハンカチをお忘れなく。

物語

1980年代初頭、中国湖南省の山岳地帯に、手紙や新聞、雑誌などをつめた重いリュックを担ぎ、険しい山道を1日40km歩き、120kmの行程を2泊3日で村々をめぐって手紙を届けている郵便配達の男がいた。長年の厳しい仕事で足を痛め、郵便局長から退職を勧められおり、今日は、その仕事を引き継いだ一人息子が、一人で配達に出かける日である。

父は、自分で書いた地図の道を指でたどりながら息子に言う。「お前は自分が継ぐと言ってくれたが、つらい仕事だ、後悔するかもしれないぞ。」母も「農業をしても、街で働いてもいいのよ」と言う。しかし息子は「郵便配達は公務員だ。普通の仕事よりいい、幹部にだってなれるかもしれない」と、手紙の詰まったリュックの紐を締める。

父と母が見送りに出るが、道案内の犬“次男坊”が、息子についていかず、父のもとをはなれようとしない。道案内でもあり、また一人旅の頼もしい仲間でもある次男坊がいない行程の大変さがわかる父は、とうとう息子と一緒にでかけることにする。こうして2泊3日の父と息子の旅が始まる。

息子と父は、黙々と山道を進む。

寒婆幼という村では、まず、半身不随で一人暮らしのお婆さんの家を訪れる。戸口で糸を紡いでいるお婆さんは、次男坊の気配で郵便配達夫が来たことを知る。お婆さんは目が見えない。手紙は、町に住む孫が、月一回事務的に送ってくるものである。渡された封筒を何度も手で撫で、中からお札を取り出すと大切そうに胸にしまった。お札を包んでいた紙を差し出すと、父はそれを受け取り、お婆さんの前に座って読み始めた。「お婆さん、目はどうですか……」途中まで読むと「これからは息子が読みます」と伝える。手紙を渡された息子は読み始めようとして息をのんだ。その手紙は白紙だったのだ。続きを聞きたいと待っているお婆さん。息子はどうにか読み終えることができた。「孫の話を聞いているようだった」と言われ、「お婆さん、また来るからね」と息子はお婆さんの手を取る。お婆さんはその手を撫で「手紙がよく来るから頼むよ」と声をかけるのだった。

郵便配達のために家にいることが少ない父に、息子は小さいころからなかなかなじめないでいた。しかし、この村あの村とめぐり、郵便を受け取る人々と父とのかかわりに触れながら、父がどのような思いでこの仕事を果たしてきたか理解していく。また父も、古里を離れ一人で留守を守っていた妻の寂しい思いを、息子をとおして知っていくのである。

川に来た。しかし向こう岸に渡る橋はない。川を渡れば4kmは近道ができるが、水がとても冷たいので、村人たちは遠回りをする。父は、この川を渡り続けて膝を痛めていた。息子はズボンの裾をまくって川を渡る準備をする。自分も入ろうとする父に「今日は入らないで」と言う。次男坊を先頭に川を渡り、頭上に掲げたリュックを岸に置いた息子は、今度は父を背負って再び川を渡る。

「父親を背負えば一人前といわれた。父の背が高かったので、自分には背負えるかどうか自信がなかったが、小学校のころには追い越していた」リュックより軽くなった父を背負いながら、息子は回想する。背負われている父もまた、小さい息子を肩車に乗せて人混みを歩いたときを思い出している。今は立派に成人した息子に背負われながら、感無量で涙ぐむ。

父と2人だけの2泊3日の郵便配達の中で、父と息子は最高に理解しあっていく。

2人の帰りを待っていた母。そして翌朝、息子はまた重いリュックを背負って家を出る。今度は、次男坊も父のもとにとどまらずに息子の後を付いていくのだった。

 

父から子への世代交代に重ねて、中国の近代化への変化も重ねられていて、監督の思いが伝わってくる感じです。

セリフで説明するのではなく、美しい緑と、その中を黙々とあるく父と子の姿、父と子の互いを思いやるそれぞれのまなざしが、人間の美しさを存分に語っています。

インターネットの時代になっても、メールが入ってるとうれしいもの。手紙は、自分を思ってくれている人がいるということの証しであり、時には生命をつなぐ糸となるもの。大切にしたいものです。

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