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 DISTANCE

2001年6月

僕たちは被害者なのか、加害者なのか

DISTANCE

  • 監督・脚本・編集: 是枝裕和
  • 出演:ARATA、伊勢谷友介、寺島進、夏川結衣、浅野忠信、
       りょう、中村梅雀

2001年 日本映画 132分

  • 第51回カンヌ国際映画祭コンペティション正式出品作品

「たぶん、こういうのが本当の映画なんだろうな」と思うような作品でした。ハリウッド映画のように、何億円もかけた壮大なスケールの作品やディズニーのアニメのような娯楽映画ももちろん映画の醍醐味(だいごみ)ですが、山奥の湿気を感じさせる静かな湖をポイントに、多くを語らず、生きるとは何かをじっくりと感じさせることによって、観客をシーンの中に巻き込んでいく……、映画の特徴を生かした演出と思われます。

映画の作り方が、通常とちょっと違います。キャストに与えられるのは、人物設定と自分のセリフと物語の方向性、相手のセリフはいっさい知らされていません。俳優たちには、相手の反応をつかみながら、その場で互いの関係を成り立たせていきます。演出から「ディスタンス」が大切になっている感じですね。監督自身も、こういう場面を撮影するぞ! というのが初めからできているのではなく、俳優たちのその場での関わりから生じる反応から、シーン シーンをつなげていくのです。俳優たちは限られた情報の中で、自分の役がらのイメージをふくらませていきます。しかし、実際の生活ではあらかじめシナリオがあるわけではありませんから、この方法は私たちの現実に近いものといえるのでしょう。この方法って、本当の意味で「ある人物を演じるという」ということなのかもしれませんね。というわけで、不思議な雰囲気の映画です。

物語

あるカルト集団が、東京都の水源地をウィルスで汚染して多くの死者と被害者を出すという事件が起きた。その後、実行犯たちは教団によって殺され、教祖も自殺した。

事件から3年後の命日、実行犯の遺族4人は、追悼のために山奥の湖を訪れる。殺された実行犯の遺灰は、湖にまかれた。彼らは古びた桟橋に並び、手を合わせる。帰り道、一人の元信者と出会う。彼は実行犯たちとともに過ごしたが、事件を前に逃亡したのだった。5人は、信者たちが暮らしていたロッジで一夜を過ごすことになる。

ほこりだらけのロッジの中は、冷蔵庫と布団だけが残っており、後はすべて警察が没収してしまった。教団に入った夫が、姉が、妻が、兄が暮らしていた空間の中で、4人は過去の記憶と向き合う。元信者から、ここでの生活を聞きながら思う。一緒に暮らしていた家族が、ある日突然、教団に入ると言って家を出ていった……。彼らは何を求めて「あっちの世界」に行ってしまったのだろう。一緒に暮らしていても、まったく知らなかった家族の姿があった。どこから道が違ってしまったのだろう。教団に入ってしまった彼らの思いは理解できない。それとも、理解できない私がおかしいのだろうか……?

DISTANCE

5人は同じ境遇の互いの存在を感じながら、教団に入って向こう側へ行ってしまった家族との記憶をたどり、彼らとの距離を思って夜を過ごす。

翌日、彼らは東京に戻り、遺族たちは「じゃあ、また、来年」とそれぞれの生活に戻っていく。

 

映画が終わってキャストやスタッフの名前が流れはじめると、必ずそそくさと席を立つ人が数人いるものですが、「ディスタンス」では、終わりのタイトルが終わるまで、だれ一人として席を立ちませんでした。その気配さえありませんでした。最後のシーンがシンボリックで、「え~~、何???」と思っているうちにエンディングになるので、みなその答えをさがしていたのかもしれません。または、映画を見ながら、登場人物と一緒にいろいろと味わっていたので、なぜ終わりがくるの?……という思いで、しばらく現実にもどれなかったのかもしれません。

セリフからではなく、感じたり、考えている場面をていねいに取り上げています。すごい作品だと思います。

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