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 G O

2001年10月

GO

  • 監督:行定勲
  • 原作:金城一紀(『GO』第123回直木賞受賞作 講談社刊)
  • 脚本:宮藤官九郎
  • 音楽:柴山甲広
  • 出演:窪塚洋介、柴咲コウ、大竹しのぶ、山崎努

2001年 日韓合作映画 122分


「GO」の試写を見たある映画評論家が、ラジオで「久しぶりに、すばらしい俳優を見つけた!」という内容の話をしていました。「ぞっこん惚れてしまった!」という感じです。

彼がほめるすばらしい役者というのは、窪塚洋介君のことです。こんなにほめられるって、どのような作品に仕上がっているのでしょうね。その目で見ると……、書店の店頭には雑誌には窪塚君の顔が並び、NHKの「トップランナー」に出演し、「GO」のTVコマーシャルも始まり、新聞でも紹介され、なんだかすごく盛り上がっています。映画「GO」自体がいいのか、坪塚君がいいのか……。ともかく、原作は昨年の第123回直木賞受賞作で、原作者、監督、脚本とも30代前半という若い彼らは、「在日」という難しいテーマをどのように描いているのでしょうか。

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俳優:窪塚洋介

窪塚君との出会いは(もちろん画面を通してですが)、ドラマ「少年H」― 少年編 ― でした。みなさんご存知ですよね。背妹河童さんの少年時代を描いた作品です。窪塚君の役は「男ねえちゃん」。第二次世界大戦中、彼は徴兵されますが、戦地に赴く前日に逃走、行方不明となります。母親思いの彼は、自分の町に戻っていました。彼の隠れていた場所は、実家の近くの共同トイレの中。しかし近所の人がトイレの戸を開けて見つけたとき、彼はすでに死んでいました。自殺でした。

少年Hに対してとてもやさしくて、あたたかい心を教えてくれたお兄ちゃん的存在。一見弱々しいので「男ねえちゃん」と呼ばれていました。窪塚君はこの後、特に最近はNHKでも民放でもドラマ出演が続き、どんどん人気が出てきました。「今、一番目が離せない男優」とか?
 

「自らのアイデンティティー」を探すコリアン・ジャパニーズの高校生

「これは僕の、恋愛に関する物語だ!」 主人公の杉原(坪塚洋介)は、映画の中で、何回かこう宣言します。しかし、これは父と息子のドラマでもあります。父と息子は、真剣にぶつかり合います。杉原の恋人の桜井(柴咲コウ)との関係が、在日の人々と日本人との関係を表しています。父親の生き様、友達のとの交わり、恋愛、将来の夢を通して、彼が自分自身を見つめていく物語です。

主人公は、コリアン・ジャパニーズの杉原(窪塚洋介)、あだ名は「クルパー」。父・秀吉(山崎努)は元ボクサーで、杉原も小学生のころから、父親からボクシングを習いました。民族学校の中学生のとき、「スーパー・グレート・チキン・レース」という、失敗したら命がない恐ろしいレースに挑戦し、みごとクリア。(「スーパー・グレート・チキン・レース」については説明が難しいので、映画でご覧ください。)勢いがついたクルパーは、父親からたたき込まれたボクシングで、学校でのケンカは連勝、連勝! 彼の仲間といえば、「スーパー・グレート・チキン・レース」の生存者・先輩の「タワケ」、教師たちに目をつけられている元秀(ウォンス)、暴力団の親分の一人息子・加藤、開学以来の秀才で、将来は民族学校の教師になりたい正一。このような仲間と、ケンカもするが仲のよい父と母・道子(大竹しのぶ)に囲まれ、普段は、国籍のことをまったく意識せず毎日を過ごしていました。

朝鮮国籍の父は、ハワイ旅行を機に、国籍を韓国に変更しました。朝鮮から韓国に変えることに、どんな意味があるのか。杉原は「ダッセイ話だ!」と父を避難します。それに対して父は、「拳を握って腕を伸ばせ。そして、円を描け。円の外には手強いヤツがいっぱいる。」さらに言います。「広い世界を見ろ! そして、自分で決めろ!」杉原は叫びます。「国境線なんか、俺が消してやる!」

杉原は、父の言葉から広い世界に挑戦しようと、日本の高校へ行くことを決心します。

ある日杉原は、加藤の誕生パーティーで、桜井という女子高校生と出会います。2人は次第に親しくなりますが、彼女は下の名前を教えてくれません。2人は、楽しいデートを重ねます。ある日杉原は決心して、自分が「在日」であることを打ち明けます。彼女との間では、そんなことは問題ではないと思っていたのですが、結果は反対でした。彼女は態度を硬直させます。どうしても、今までのようにはなれないというのです。「どうして?」「小さいころから、お父さんに、中国や韓国の男性とはつきあってはいけないと言われてきた」!?

この場面、「なぜ?」「どうして?」と、とっても不思議な思いで見ました。彼女は杉原が大好きです。つきあっている彼が、どこの国籍であろうと、杉原にかわりはないのです。人間として、何もかわりはないのに、それも親から刷り込まれた偏見によって、「頭ではわかっても体がいうことをきかない」ほど避けるのです。悲しいかな、これが私たち日本人の現実なのです。差別には何の根拠もありません。国籍が違うというだけです。自分が判断したからではなく、他の人から刷り込まれた価値観で人を見るのです。「高校生にもなったら、自分で考えてよ!」「あなたのつきあった杉原は、いい人じゃない! それで十分でしょ!」と言いたいところです。国籍って、何なのでしょう。
 

「広い世界を見るのだ!」

日本人の高校に入って、バスケット部に入った杉原が、差別に対して激しく抵抗して暴れまくるときの目。「何か世の中、変だよ!」 彼は、挑戦します。彼の挑戦する姿勢は、私たちに呼びかけます。「自分の目で見て、自分で考えて、自分で判断して、生きてよ!」様々なしがらみ、他人の目、常識にしばられている私たち。何が本物なのか……。何を大切にして生きなくてはいけないのか……。

父親の姿を批判しながらも尊敬している杉原の目、うやむやにしない心。 暴力はいやですが、見えない壁に向かっていく杉原のファイトは、スカッとした気持ちのよさを感じさせてくれました。

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