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2002年10月

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  • 企画・監督・撮影:小林貴裕
  • 製作:安岡卓治
  • 製作・著作:日本映画学校

2001年 日本映画 64分

  • 第1回世界学生映画祭大賞受賞
  • 第11回TAMA CINEMA FORUM TAMA NEW WAVE
              ビデオ部門グランプリ受賞
  • Az Contest2001グランプリ受賞
  • ネクストフレーム・ジャパン2002最優秀作品賞受賞
  • NEXT Framer's Favorite賞受賞
  • イメージフォーラムフェスティバル2002奨励賞受賞
  • 第23回神奈川映像コンクール優秀賞受賞
  • 台湾ゴールデンライオン国際学生映画祭出品
  • ハワイ国際映画祭出品

日本映画学校で学ぶ小林貴裕さんが、卒業作品として制作した映画が評判を呼び、ご覧のようにたくさんの賞を受賞しました。新聞や、雑誌でも取り上げられていますので、関心をお持ちになった方もいらっしゃると思います。兄の家庭内暴力によって崩壊した家族を再び一致させ、今も引きこもりを続けている兄を助けなくてはと奮闘する弟が撮影したドキュメンタリー作品です。

物語

貴裕は、父と一緒に埼玉に住んでいます。実家は、長野県の屋代。そこには、高校生のときから7年間、引きこもりを続けている兄・博和と、兄の世話で苦しみ、うつ病になってしまった母、そして、離れには、大腸ガンで末期と診察された祖母が暮らしています。父は、兄の暴力に耐えられなくなって屋代を出て、貴裕は、高校進学を理由に実家から離れたのでした。

 「貴裕、どうすればいいんだよぅ~」

ある夜、貴裕に母から電話がかかりました。精密検査の結果、おばあちゃんが末期ガンだとわかったのでした。本人は知りません。2人の病人を抱え、自分自身も病気に苦しむ母親の悲痛な叫びに、貴裕は、5年ぶりに実家に帰ることにしました。その時から、貴裕のカメラはまわりはじめます。

実家は、蔵や離れもある立派な門構えの家です。しかし、2階に引きこもっている兄は潔癖症で、母親に辛く当たり、母は兄の暴力におびえていました。畑を耕す祖母は、ガンとは思えないほど元気で、にこやかに孫の帰省を喜びますが、兄と母の険悪な関係を知りません。

「映さないでくれよ~~、止めてよ~」と泣いて訴える母親に向けて、貴裕は容赦なくカメラをまわし続けます。貴裕は言います。「カメラをまわさないと、家族に向き合えない。」

自分一人の力では、兄を引き出すことはできない、父親の代わりをすることはできないと悟った貴裕は、次に来るときは、必ず父を連れて帰るからと母に約束して、埼玉に戻ります。しかし、父への説得は、失敗に終わりました。

11月、再び屋代にもどってみると、家に母の姿がありません。母は、寒いガレージの車の中で眠っていました。「怖いよ~、怖いよ~」と、兄を恐れてなかなか家に入ろうとしません。「オレが守るから」と説得して、家に戻ります。温かいこたつに入ってうれしそうな母。しかし、2階から兄が降りてくる気配がすると、反射的に、母は、またガレージへと行ってしまいました。

母親を寒いガレージに追いやる兄に怒った貴裕は、勇気を持って兄の部屋に入って行きます。カメラを落とされ、たたかれ、痛い思いをしましたが、ケンカのようなやり取りの中で、「お前は、外に出られるからいい」と、兄の本音が聞けました。「オレ、兄とコミュニケーションができたよ」とうれしくなった貴裕は、次の日も、兄の部屋を訪問します。そしてついには、「絶対たたかないと約束させたから」と、母を兄の部屋へつれていくことに成功します。

 「おかさんが、原因かね~~」「そんなんじゃ、ねぇよ!」母と兄は、会話することができました。

赤と黒のボールペンで、ぎっしり書かれた兄のノート。そこには、苦しむ兄の思いが書かれていました。

 「まとわりつく、ママの手から逃れたい」
 「自立したい、自立できない。自立したい、自立できない。」

貴裕の知らない間に、兄がカメラを回していました。「かあちゃん、ごめん。みんなのために、家を出る……。」映像の中に、兄の告白がありました。

 「オレは大丈夫だから、探さないでくれ。」

兄は、家を出ました。

 

みんな、それぞれ家族を思っているのです。一番苦しんでいるのは兄本人だと、貴裕にも分かってきました。

この映画を見ながら、「時」が必要なんだなと思いました。兄も、いつまでも引きこもり続けていることは苦しいと感じていたのでしょう。何か、きっかけが必要だったのです。そのきっかけは、弟が部屋へ入ってきてくれたことでした。弟は、母親を思い、兄と話ができるまでに成長したのです。兄も弟も大人になったのだ、こういう状態になるまで、時間が必要だったのだ、そして、今、「時」が満ちたのだと思いました。

それに一役買ったのが、カメラでした。いやがる母を前に、よくここまでカメラを回せたな……と、最初は見ていて苦しい感じがしていました。しかし貴裕さんは、このカメラによって自分を強くして、家族のために動くことができたのです。家族をなんとかしたいという彼の真剣な思いと、このカメラで撮影するということで、兄と家族を救ったのでした。

なんとも不思議な映画です。実際のフィルムは、もっともっといろいろな場面を映し出したのでしょうけれど、編集も上手だと思いました。特に、終わりかたの「さっぱりさ」が、兄の旅立ちを印象づけています。多くを語らず、いい映画だなと思いました。

  「ひきこもってもいいじゃないか。
       ちょっと遠回りするだけだよ。」

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