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 ラストシーン

2002年11月

LAST SCENE

ラストシーン

  • 監督:中田秀夫
  • 脚本:中村義洋、鈴木謙一
  • 音楽:ゲイリー芦屋
  • 出演:西島秀俊、若村麻由美、麻生久美子、ジョニー吉長、麻生祐美

2002年 日本映画 1時間40分


テレビの台頭によって、映画に陰が見えはじめてきた時代の撮影所と、現在の撮影所での様子、一人の俳優の人生と重ねながら描いています。人生の終わりにあたって心残りになっていることをプライドを捨てて果たしていく姿は、周囲の者の生き方にも影響を与えます。

物語

1965年。

映画の撮影所では、吉野恵子(麻生祐美)と三原健(西島秀俊)を主役にして、「愛の果て」が大詰めを迎えていた。子役時代から映画の世界で生きてきた三原は、スター女優吉野恵子の相手役として人気が出てきていた。しかし恵子は、この作品を最後に引退すると発表した。テレビの台頭によって映画の時代は終わることを予知し、スターの座のあやうさから、結婚を機に引退を決意したのだった。彼女の相手役として、次の作品の主役に決まっていた三原は、恵子の急な引退によって、主役の座を降ろされてしまった。彼はおもしろくない。

休憩時間、スタッフたちは、高速道路で起きた悲惨な交通事故を知らせるラジオに聞き入っていた。怒りのやり場がない三原は、照明助手に当たり散らし、映画会社の上司には、言葉のはずみで「辞めてやる!」と言ってしまう。ふてくされて控え室に戻り酒を飲もうとすると、妻の千鶴(若村麻由美)がソファーに座っていた。千鶴は何か伝えたそうにしていたが、三原は、優しくなだめる千鶴に「うるさい!」と怒鳴り、スタジオに向かう。

再び撮影が始まった。雷の場面のタイミングがあわず、取り直しが続く。そんな時、千鶴が交通事故で亡くなったという知らせが届く。

時代は移り、2002年。

同じ撮影所では、テレビ番組が当たって映画化されることになった「ドクター鮫島」の撮影が行われていた。映画の世界にあこがれてこの仕事をはじめた小道具係のミオ(麻生久美子)は、コロコロ変わるケータイ中毒の監督や、演技の下手な俳優たち、視聴率と俳優の人気ばかりを気にしているプロデューサーたちの姿勢に嫌気がさし、仕事を続けていくことに疑問を感じていた。

ある日、入院患者で死期が迫っている老人の代役として、一人の初老の男が撮影所にやってきた。病人の化粧をしなくても、彼の顔は、死が迫っている人のようだった。初老の男は、かつてのスター三原健(ジョニー吉長)だった。昔、三原に殴られたことがある照明チーフは、三原の変わり果てた姿に驚く。

老人の遺影となる写真を写すため、ミオは三原を公園に連れ出す。堅い表情の三原を和ませようと、シャッターを押しながらいろいろと話しかけていく。三原のスター時代を知らないミオだが、彼の口から、真の映画人の言葉を聞き、三原に関心を持つようになる。

いよいよ、老人が死を迎えるシーンの撮影が始まった。しかし、あるセリフのところにくると三原はどうしてもつかえてしまう。ミオは三原によりそい励ますが、撮影は進まず、スタジオ全体に疲れがたまってくる。ミオと同じように、年輩のスタッフたちもじっと三原を見守っていた。長引く撮影を早く片づけてしまおうとするプロデューサーの態度に、ミオは三原をかばって怒りを投げつける。

彼女の真剣さが、スタッフたちの映画魂を呼び覚ました。スタジオ全体に、今までなかった張り詰めた空気が満ちていく。監督も、主演の俳優も、真剣な眼差しに変わっていった。

 

撮影所でも家庭でも、傲慢に生きていた三原。彼が演じる病床の老人の最期と、かつての映画スターだった三原自身の人生の最期が重なっていきます。何回やってもつかえてしまう「走馬燈のように人生が写るんだ」というセリフ。実感をこめてつぶやく三原を見ながら、撮影所にいる人々は、自然と三原の人生に集中していきます。映画一筋に生きてきた年輩のスタッフたち、監督、若い俳優たちは、何を思っているのでしょう。三原を見ながら、人の一生を考えさせられているのではないでしょうか。そして、そのシーンを見ている私たちも、三原をとおして人生を考えているのです。

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