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 クレールの刺繍

2005年9月

Brodeuses

クレールの刺繍

  • 監督:エレオノール・フォーシェ
  • 出演:ローラ・ネマルク、アリアンヌ・アスカリッド、トマ・ラロップ
  • 配給:協映

2003年 フランス映画 88分

  • 2004年カンヌ国際映画祭批評家週間 グランプリ受賞

出産を悩んでいる17歳の女性と、息子を事故で亡くし生きる希望を失った中年の女性が、刺繍をとおして互いに絆を深め、生きる力を取り戻していくという物語です。二人はお互いを知りあうために、言葉を必要とはしませんでした。刺繍という沈黙の作業の中で、また、お互いの思いやりの中で、ふたりの静かな心の交流が行われていきます。

物語

クレール(ローラ・ネマルク)は17歳。静かだが、忍耐強い少女だ。親元を離れ、スーパーのレジをしながら、一人暮らしをしている。刺繍が大好きで、仕事が終わると家に帰り、刺繍台に座るのが、クレールの一番大切な時間だ。時々、黙って実家の畑からキャベツを盗み、それと交換に、刺繍に必要なうさぎの毛皮を手に入れている。

クレールは妊娠している。もう5か月になり、お腹のふくらみが目立ってきた。同僚からは太り過ぎだといわれると、「ガンの薬の副作用のせいよ」と答えている。子どもの父親には、家庭があるらしいが、もうクレールには会いたくないと言っている。医師はクレールに「匿名出産」を勧める。出産の費用は無料で、赤ん坊が産まれたらすぐ養子に出すのだ。妊娠したことは、母親に言っていない。

クレールの刺繍

クレールはスーパーで働くことが肉体的に無理となり、10日間の休暇をとった。その間、趣味の刺繍を生かして何かしようと、刺繍の先生であるメリキアン夫人(アリアンヌ・アスカリッド)のアトリエを訪ねる。メリキアン夫人は息子をバイク事故で亡くしたばかりで、生きる気力を失っていた。刺繍の仕事をするには、資格が必要だが、メリキアン夫人はクレールを試験した後、クレールを通うよう許可する。

アある日、アトリエに行くと、メリキアン夫人が倒れていた。自殺を計ったのだ。クレールは救急車を呼び、メリキアン夫人は一命を取り留めた。クレールは毎日、病室に通う。しかしメリキアン夫人は、もう来ないでと言う。クレールは、「明日も来ます」と言って、毎日通う。先生の心の変化を想像して、身の回りの物を病室に持っていく。クレールは、メリキアン夫人の息子と一緒にバイクに乗っていて事故にあったギヨーム(トマ・ラロップ)と引きあわせる。ギヨームも、顔に大けがを負っていた。彼の妹は、クレールが心を開いて語れる唯一の友人だった。クレールは、メリキアン夫人が生きる希望を持って欲しいと願っていた。そんな思いが通じたのか、メリキアン夫人は、ギヨームにも、慰めの心を向けることができるようになっていた。

やがてメリキアン夫人は、退院する。クレールは、毎晩コツコツと刺し続けた刺繍をストールにして、メリキアン夫人にプレゼントする。メリキアン夫人は、その出来栄えに驚き、そして喜ぶ。

クレールの腕前を知ったメリキアン夫人は、クレールと一緒に作品を制作しようと誘う。二人は、同じ刺繍台に座り、一針一針、刺していく。クレールは、メリキアン夫人にとっていい相棒となる。メルキアン夫人は、クレールが妊娠していることはわかっていたとクレールに言う。メリキアン夫人の温かい思いを感じながら、クレールは、匿名出産ではなく自分で育て、妊娠していることを母に打ち明けると、メリキアン夫人に告げる。

 

クレールを演じるローラ・ネマルクが、神秘的で魅力的です。相手を思いやるときのクレールの静かな表情がとてもステキです。映画は、多くを説明せず、できごとを淡々と追っていきます。人生には辛いこともあり、どうしていいかわからないときもある。考えなければいけないこともあります。しかし、心を語れる、心を開ける相手がいることによって、生きる力が戻ってくるのです。二人の間には会話がなくても、存在と相手への思いやりで、理解しあっていきます。騒々しく、音の多い今の社会の中にあって、静かでしみじみと、人間を暖かく包むような味わい深い作品です。

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