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 亀も空を飛ぶ

2005年9月

Turtles can fly

亀も空を飛ぶ

  • 監督・脚本・製作:バフマン・ゴバディ
  • 撮影: シャーリヤル・アサディ
  • 音楽:ホセイン・アリザデー
  • 出演:ソラン・エブラヒム、ヒラシュ・ファシル・ラーマン、
         アワズ・ラティフ
  • 配給:オフィスサンマルサン

2004年 イラク、イラン映画 97分

  • 2004年サンセバスチャン国際映画祭グランプリ
  • 第5回東京フィルメックス審査員特別賞、アニエスベー観客賞
  • 2004年シカゴ国際映画祭審査員特別賞
  • 2004年サンパウロ国際映画祭観客賞
  • 2005年ロッテルダム国際映画祭観客賞
  • 2005年ベルリン国際映画祭平和映画賞

現在の、イラクのクルド人の子どもたちの苦しみを描いた、あまりにも悲しい物語です。地雷で手足を失った子どもたち。親を亡くした彼らは、地雷を掘り出し、1コ15ドルほどで市場で売り、生き延びています。子どもたちを使って集められた地雷は、溶かしてイギリスなどに売られ、それらがまた新しい地雷となって、子どもたちの足下に埋められるのです。やり切れない現実があります。

子どもたちは、15歳のリーダー格の男の子が中心になって、助け合い、集団で暮らしています。大人たちは、彼らを助けてはくれません。そこには、大人たちの姿がないのです。地域に住む年老いた男たちも、男の子に頼っています。クルド人であるバフマン・ゴバディ監督は言います。「クルド人の子どもたちは、生まれたときから、大人になっています。子ども時代がありません。教育の面でも、遊びの面でも、子どもらしさの時代がありません。子どもたちは、大人なのです」と。

亀も空を飛ぶ
バフマン・ゴバディ監督


物語

2003年トルコ国境近くの、イラク・クルディスタンの村。アメリカびいきの15歳の少年サテライト(ソラン・エブラヒム)は、年下の子どもたちを集めて、地雷取りのアルバイトをさせている。最近は、近くにやってきた難民の子どもたちも働くようになった。彼らの中には、地雷で手や足を失った子も多くいる。

サテライトは、テレビアンテナの設置に苦労していた。アメリカのイラク攻撃が間近に迫り、その情報を得ようと、アンテナを立てているのだが、なかなか映らない。そのとき、赤ん坊を背負った少女から声をかけられる。ロープが欲しいのだと言う。背中の赤ん坊は、目が見えなかった。少女に魅かれたサテライトは、ロープを探す約束をする。

亀も空を飛ぶ

サテライトは、特別の能力を持っている 両腕のない難民の少年のうわさを聞く。彼は、地雷のある場所を言いあてて、口でたくみに道具を使い、たくさんの地雷を掘り出しているという。ある日、トラックに積まれた火薬を整理する仕事が回ってくる。サテライトは、手際よく子どもたちを分け、仕事に取りかからせる。しかし、サテライトは、腕のない少年が「そのトラックは不吉だ」と言っていることを知り、急いで子どもたちをトラックから離れさせる。しかし、難民の子どもたちはその声を聞かず仕事を続ける。そのとき、トラックが爆破し、難民の子どもたちが犠牲となる。

腕のない少年はヘンゴウ(ヒラシュ・ファシル・ラーマン)といい、サテライトにロープを頼んだ難民の少女アグリン(アワズ・ラティフ)の兄だった。そして、アグリンの弟だと思っていた赤ん坊リガーは、村に攻めてきたイラク兵から暴行されて生んだ、アグリンの子どもだった。アグリンはリガーを見ると、恐ろしいあの時のことを思い出し、生きる希望を失っていた。リガーを亡き者にしようと思っていた。ヘンゴウはアグリンの行動を思いとどまらせていた。

亀も空を飛ぶ

ヘンゴウは、アメリカのイラク攻撃がはじまる日がやってきたことを予知する。サテライトは、慌てて、村人たちを丘の上に集める。そこへ、アメリカ軍のヘリコプターが現れ、ビラがまかれる。そこには、「弾圧と貧困の日々は、これで終わりだ。われわれは君たちの一番の友人であり兄弟である。われわれに抵抗する者は敵だ。」サテライトは、武器市場へ行き、ロシア製の機関銃を借りる。代金は、子どもたちが掘り出した地雷だった。

その夜、アグリンはラガーを連れ出す。翌朝、サテライトは、地雷原にリガーがいると知らされ、リガーを助けるために現場へ向かう。サテライトは、リガーが歩きまわらないようにあやしながら近づくが……。そして、アグリンは……。

 

監督は、この映画を撮影する前に、絶望的になってしまったそうです。なぜ、映画を撮るのか、と。しかし、手足のないこどもたちと映画を撮りながら、彼らからエネルギーをもらったそうです。「彼らのほほ笑みは、生き生きとしていました。世界中で、一番美しいほほ笑みでした。彼らは、悲惨な状況の中で暮らしていますが、一日一日を楽しく過ごしている健康的な子どもたちです。クルド人は戦争が身近なものになって長年になりますが、希望をたくさん持っている民族です。」子どもたちの小さな胸に、こんなに大きな人間の哀しみを与えていいのだろうか……とも思える絶望的な世界にあって、彼らは、たくましく生きていきます。このような状況に置かれた子どもたちに、世界はもっと目を向けるべきだ。ゴバディ監督の叫びが聞こえてきます。

サテライト、ヘンゴウ、アグリン役や他の子どもたちは、クルディスタン人の子どもたちから選ばれたそうですが、顔が大人のようなまなざしで、短い人生の中で、実生活の中でたくさんのつらいことを体験したことがうかがえます。世界の映画祭で、28もの賞に輝くこの作品を、ぜひ、ご覧ください。

亀も空を飛ぶ

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