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 ステイーヴィー

2006年3月

STEVIE

ステイーヴィー

  • 監督・製作・編集:スティーヴ・ジェイムス
  • プロデューサー:ゴードン・クィン、アダム・シンガー、
              スティーブ・ジェイムス
  • 音楽:ダーク・パウエル

2002年 アメリカ映画 145分

  • 山形国際ドキュメンタリー映画祭2003最優秀賞
  • アムステルダム国際ドキュメンタリー映画大賞
  • サンダンス映画祭最優秀撮影
  • トロント国際映画祭正式出品

アメリカには、児童や若者を指導するために、「ビッグ・ブラザーまたはビッグ・シスター」という制度があります。少年・少女の更生を助けるために、友人となるプログラムです。更正を受ける少年・少女は「リトル・ブラザー、またはリトル・シスターと呼ばれる「リスクを抱える少年・少女」で、そのリスクとは児童虐待、不登校、貧困、家族のトラブルなどがあげられます。

監督のスティーヴ・ジェイムスは、大学生のとき、犯罪カウンセラーである妻のジュディーのすすめで、11歳の少年スティーヴィーのビッグ・ブラザーとなりました。彼は、私生児として生まれましたが、彼が小さいときに母バニースは他の男性と結婚しました。やがて夫婦は家から出て行き、スティーヴィーは義理の父親の両親に育てられました。

スティーヴィーが8歳のとき、義理の祖父が亡くなり、スティーヴィーが11歳のときには、もう手に負えない状態になっていました。このころ、スティーヴ監督はスティーヴィのビッグ・ブラザーとなりました。しかし、2年後スティーブ監督は仕事の関係でシカゴへと引っ越します。

その後、スティーヴィーは養護施設に入り、何組かの里親に引き取られ、精神病院に入れられ、さまざまな犯罪によって10回以上も逮捕されます。スティーヴィーから離れてしまったことに罪の意識を持っていたスティーブ監督は、10年後の1995年、スティーヴィーについての映画を撮ろうと、彼を訪ねます。しかし、チャンスとなる長編映画の仕事が入り、再びスティーヴィーから離れます。

さらに2年後の1997年、再びスティーヴィーの映画の撮影に取りかかろうとしたとき、スティーヴィーは人生の窮地に立たされていました。28歳のスティーヴィーは、8歳のいとこをレイプした罪で訴えられていたのです。

映画は、スティーヴィーのビッグ・ブラザーとなった1982年のときのもの、1995年のとき、そして1997年に撮影したフィルムへと続いていきます。その中に、スティーヴィーを取り巻くさまざまな人が登場します。

スティーヴィーを虐待し捨てた母親バニース、夫亡き後スティーヴィーを頼りとして彼を育てた義理の祖母ヴァーナ、兄スティーヴィーの面倒を見る義理の妹のブレンダと夫のダグ、彼を愛し続けるスティーヴィーの婚約者のトーニャ、スティーヴィーの最初の里親となったハルとリンダ夫妻、スティーヴィーが育った村の人々、スティーヴィーの釣り仲間、義理の父親にレイプされたことのあるトーニャの友達……などなど。スティーヴィーを非難する人、スティーヴィーをなんとか立ち直ってほしいと大切に思ってくれる人。スティーブ監督は、スティーヴィーに関わったこれらの人々と連絡を取り、インタビューしていくうちに、自分自身も彼らと同じように、スティーヴィーの人生にかかわる大切な存在となっていることに気がつきます。

スティーヴィーは、まともにはなれないダメな人間なのでしょうか? 「虐待にあった子は、性的犯罪に行きやすい」と言いますが、スティーヴィーの度重なる犯行は、母親のせいだと言っていいのでしょうか。

フィルムをまわし、スティーヴィーに関わる人たちが心の中を見つめ表現していくうちに、人々の間に変化が生じます。まず母親のバニースが変わり、そしてスティーヴィーも変わっていきます。

罪を犯す若者、特に性的犯罪を犯す若者とどうかかわっていくかということは難しい課題ですが、この「映画製作のための撮影作業」という行為が、スティーヴィーと彼にかかわる人々の内省と癒しとなっていったように思います。監督という他者とカメラが入るとことによって、スティーヴィー自身、出来事や状況を客観的に見ることができるようになり、他者からの愛情を確認することができたのではないでしょうか。

スティーヴィーのように、かかわりを持ち続けてくれる人を持っている人は幸せです。映画「スティーヴィー」は、当初の監督の意図とは違って、ドロドロとした人間の狭い心と、反対に人を包み込み信じるという美しい心、この両方を持つ人間の奥深さを描き出す作品となりました。この映画は、犯罪者という特定の人のことではなく、わたしたちの家族や人とのかかわりを問いかけてくる深い作品です。

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