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 明日へのチケット

2006年11月

明日へのチケット

  • 共同監督:エルマンノ・オルミ、アッバス・キアロスタミ、ケン・ローチ
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  • 脚本:エルマンノ・オルミ、アッバス・キアロスタミ、ポール・ラヴァティ
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  • 出演:カルロ・デッレ・ピアーネ、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、
  •     シルヴァーナ・デ・サンティス、フィリッポ・トロジャーノ、     マーティン・コムストン、ウィリアム・ルアン、ガリー・メイトランド   
  • 音楽:ジョージ・フェントン
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  • 配給:シネカノン

2005年 イタリア・イギリス合作映画 110分

  • 2005年ベルリン国際映画祭 アウト・オブ・コンペ部門正式出品

この映画は、世界的に有名な3人の監督が、ヨーロッパの国々を走り抜ける列車の乗客を、リレーのようにして描いているめずらしい作品です。3人の監督とは、1978年に「木靴の樹」でカンヌ国際映画祭パルムドール賞を受賞したイタリアのエルマンノ・オルミ監督、そして、1997年に「桜桃の味」で同じくパルムドール賞を受賞したイランのアッバス・キアロスタミ監督、3人目は、今年「麦の穂をゆらす風」でパルムドール賞を受賞したケン・ローチ監督です。

アッバス・キアロスタミの呼びかけではじまったこの映画作りは、当初はオムニバスのような3部作を考えていたそうですが、「一緒に一本の作品を作ろう!」という話になり、制作が進みました。一つの作品ですが、できるだけ自由に作ることに同意した彼らは、2つのルールを決めました。一つは、それぞれのストーリーがどこかでつながっていること、もう一つは、舞台は列車の中であること。こうして走り続ける列車に乗り合わせた人々のドラマがはじまりました。そこには、いろいろな人生がありました。お話はチケットにからめながら展開していきます。

物語

エルマン・オルミ監督:

 オーストリアのインスブルック駅。テロ対策のためすべての列車が遅れていた。ごったがえす構内で、ひとりの初老の大学教授(カルロ・デッレ・ピアーネ)が電車を待っていた。オーストリアでの仕事を終えローマに帰るときに、このひどい混雑に遭遇してしまったのだ。指定席はすべて売れ切れ。そんな中、仕事先の秘書(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)が食堂車の予約券を取ってくれた。電車出発を待っている間、彼女との会話がはずむ。教授は、すっかり彼女に魅了されてしまった。列車が出発して、食堂車の席に座りながら、教授は彼女を思い出していた。こんな気持ちは何年ぶりだろうか。近くの通路には、アルバニア移民らしい家族が座り込んでいた。母親が泣いている幼児にミルクをのませようとするが、警備の軍人がぶつかり、ミルクは床に流れてしまった。

アッバス・キアロスタミ監督:

 翌朝、列車はイタリアの小さな駅に着き、アルバニア人の家族たちは列車を乗り換えた。彼らの横を、若い青年(フィリッポ・トロジャーノ)にたくさんの荷物を持たせた太った中年の女性(シルヴァーナ・デ・サンティス)が通り過ぎていく。彼女は空席を求めて、あちら、こちらと列車の中を歩く。青年は、強引な彼女のやり方に黙って従っている。指定席に空席を見つけた女性は、二等のチケットであるにもかかわらず、そこに座り込む。次の駅で乗ってきた2人連れの男性が、ここは自分たちの席だと主張しても彼女は譲ろうとしない。青年は彼女から黙っているようにと指示されている。車掌が呼ばれる。車掌は問題を解決するため、空いている一等席の個室を彼女たちに提供する。やっと落ち着いたと思ったのもつかの間、女性は青年の名を呼び続け、薬を飲むための水が欲しいとか、コーヒーが飲みたくなったとか、何かと彼に仕事を言いつける。青年がコーヒーを買いにいったとき、ビュッフェには、3人のサッカーのサポーターもサンドウィッチを買いにやってくる。青年は列車の角で幼なじみの少女2人と出会う。もっと話を続けたいが、中年の女性がしつこく自分の名を呼ぶ。到着地が近づいたとき、女性は着替えを手伝うよう青年に頼む。しかし、青年は荷物を持って、彼女の前からいなくなる。

ケン・ローチ監督:

 サポーターの3人(マーティン・コムストン、ウィリアム・ルアン、ガリー・メイトランド)は、応援するチームがローマで行う歴史的な試合を見るため、スコットランドからやってきた。彼らはスーパーマーケットの仕事仲間で、試合のチケットと列車代を積み立て、やっとこの旅に出ることができたのだった。ビュッフェには、ベッカムのチームのユニフォームを着た少年がいた。彼はアルバニア出身で、ローマで働いている父親に会いにいくのだという。3人は食べていたサンドウィッチを少年に分けてあげると、少年は、それを家族のもとに持ち帰り、分け合って食べた。

3人は、楽しく旅を続けていた。車掌が切符の検札に来たときだった、3人のうちの一人のチケットが見あたらないのだ。乗車券がなければ、乗車券代と罰金を払わなければいけない。それもできなければ、警察に突き出すという。3人は、アルバニア人の少年が盗んだのではないかと疑いをかけ、彼らのもとへ行く。

 

まじめな教授、傲慢な中年女性、中年の女性に黙って従っていた青年、3人のサポーター、3つの話に共通なのは、列車の中での出来事をとおして、彼らが列車を降りたときには、今までの自分と違った生き方を始めることです。

また、3つの話に、同じアルバニア人の難民家族が登場します。作品が進んでいくうちに、彼らの置かれている状況が見えてきます。人々の陰で暮らしているように見えるたくさんの移民たち、彼らも監督たちが描きたかった大切な人物です。今度この作品を見るときは、アルバニア人家族を中心にして見てみたいと思います。

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