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 母べえ

2008年2月

母べえ

  • 監督:山田洋次
  • 原作:野上照代『母べえ』(中央公論社刊)
  • 音楽:冨田勲
  • 出演:吉永小百合 、板東三津五郎、浅野忠信、壇れい、
        志田未来、佐藤未来
  • 配給:松竹株式会社

2006年 中国映画 1時間45分


 

太平洋戦争が始まろうとしてる昭和15年から16年、言論や思想の自由が厳しく制限されていく時代の中で、自分の信念を失うことなく生き抜いた母と2人の娘の生活を、小学生の次女の視点から描いた作品です。そこには、夫の生き方をしっかりと受け止めている妻と、親戚や近所の人々、知人たちに支えられた人間関係がありました。

原作は、黒澤明監督作品のスクリプターとして働いた野上照代さんが書いた自伝的小説「父へのレクイエム」(今は改題して「母べえ」)で、野上さんはこの作品で「読売女性ヒューマン・ドキュメンタリー大賞最優秀賞」を受賞しました。

物語

昭和15年冬、野上家では、父べえ(板東三津五郎)、母べえ(吉永小百合)、初べえ(志田未来)、照べえ(佐藤未来)と呼び合う自由な家庭だった。父べえはドイツ文学者として大学で教えていたが、生活は貧しく家賃も払えない有様だった。しかし母べえは、「どうにかなるわよ」と苦しい生活を明るい家庭にしていた。

母べえ

ある朝、まだ暗いうちに刑事たちがやってきて、父べえを「治安維持法違反」の罪で検挙した。土足で家に入り、父の大事にしている書籍を乱暴に扱った刑事らは、父べえの両手を縄で縛り車に押し込んで連れていってしまった。初べえ、照べえは不安に震え、ただ涙を流すしかなかった。

この日から、母べえの厳しい日が始まった。父が捕らえられたと聞いて、父べえの教え子の山崎こと「山ちゃん」(浅野忠信)がかけつけてくれた。父べえの面会の仕方を教えてくれ、また、父べえの妹で東京の美術大学に通っているチャコちゃん(壇れい)も来て、家事を手伝ってくれる。「家の中に男の人がいると違うわねぇ」一家は山ちゃんの存在に助けられていた。

母べえ

山ちゃんの勧めに力を得た母べえは、面会を求めて根気よく警察に通い、その甲斐あって面会ができることになった。面会の日、母べえは着替えとお弁当を持ち、照べえを連れて警察署に向かった。父べえを待つ間、刑事たちが母べえに対してひどいことを言ったが、母べえはじっと耐えた。一緒に行った照べえは、悔しい思いをして泣いた。

頭もひげもぼうぼうで真っ黒になりやつれ果てた父べえの姿に、母べえは衝撃を受けたが、そんな思いは見せず、父べえの着替えを手伝い励ました。しかし、帰り道、母べえの涙は止まらなかった。

やがて母べえは、小学校の代用教員の口が見つかり勤め始めるが、食事不足と過労がたたり、ある日、講堂で倒れてしまう。

 

自分の父親も、夫の恩師も、「このご時世なのだから、考えを変えるようにしなければ……」と父べえを叱責するが、そんなとき、母べえはしっかりと父べえの考えを守り、怒りをもって彼らに抵抗します。ゆらぐことのないその潔さ、強さに感動します。子どもを守り、夫を支える優しい母ですが、心の奥に信念を持って厳しい時勢を生き抜いた一人の日本女性のすばらしさをとおして、戦争を行うことのむなしさと、戦争を生む社会の恐ろしさを訴えてくる映画です。

時代の流れの中で、不条理を感じ、深い悲しみが絶えない子どもたちの姿に、涙を流しっぱなしの映画でした。

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