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 トウキョウソナタ

2008年9月

トウキョウソナタ

  • 監督:黒沢清
  • 脚本:Max Mannix、黒沢清、田中幸子
  • 音楽:橋本和昌
  • 出演:香川照之、小泉今日子、小柳友、
       井之脇海、井川遥、津田寛治、役所広司
  • 配給:ピックス

2008年 日本・オランダ・香港映画 1時間59分

  • 2008年 カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査委員賞受賞
  • 2008年 オシアンズ・シネファン アジア・アラブ映画祭大賞受賞
 

黒沢明監督が、初めて家族をテーマにした作品……と、早くも話題になっている映画です。公開前に、日本映画として初めて、カンヌ国際映画「ある視点」部門で祭審査委員賞を受賞しました。それだけ訴えるメッセージのある作品です。ほぼ同じ時期に完成した「TOKYO」と並んで、日本の現状をリアルに世界に向かって表現しています。どちらの作品にも香川照之さんが出演しているのですが、彼の存在も、“今”を表しているのかもしれません。

物語

佐々木家は、父、母、長男、次男の4人家族。父・竜平(香川照之)は健康器具メーカーの総務課長だったが、総務部が中国の安い賃金にゆだねられることになり、突然解雇を言い渡される。妻に伝えることができず、ハローワークで職探しをするが、現実は厳しかった。面接に行っても、「あなたはこの会社のために何を提供できますか」という問いに、「何だってやる覚悟があります」と答えるだけで、会社の要望に応えることができず、警備員やコンビニ店長の職しかなかった。

毎朝スーツを着て家を出るが、ハローワークに行かない時間は公園ですごし、ボランティアの配給する食事をもらっていた。公園には、同じようなスーツ姿の男性たちが時間をつぶしていた。そこで知り合った黒須(津田寛治)は、竜平より3か月前にリストラされ、竜平に失業者の心得を諭す。二人は図書館に行って時間をつぶす毎日だった。

次男で小学生の健二(井之脇海)は、授業中に先生に注意された。不本意な叱責に反抗した健二は、先生の弱みをクラスの中でばらしてしまう。学校からの帰り道、ピアノ教室の前で教えているかねこ先生(井川遥)と目が合う。夕食のとき、健二はピアノを習いたいと両親に伝えるが、けなされてしまう。翌朝、大学生の貴(小柳友)が、バイトを終えて帰ってきたが、食卓にはつかず部屋へ閉じこもってしまう。

健二が登校すると、先生の立場が悪くなっていた。友達から革命を起こしたともてはやされるが、おもしろくない健二は、帰り道に壊れたキーボードを拾い、家に持ち帰る。健二は母・恵(小泉今日子)からもらった給食費をピアノの月謝にあてることに決める。

貴は、恵にサインしてほしい書類があると告げる。見ればそれはアメリカ軍への入隊志願書だった。未成年なので親のサインが必要だと言うのだ。

公園に黒須が来ていないことが気になった竜平は、黒須の家を訪ね、夫婦が娘をおいて無理心中したことを知る。家に帰ると、貴が入隊の話を切り出した。怒る竜平に貴は、「米国に協力して日本を守る。お父さんはお前たちを守るために働いていると言うが、お父さんに何が守れるのか。自分は米国と一緒になって、この国を守るのだ!」と訴え、二人は喧嘩別れとなる。

トウキョウソナタ
(c)2008 Fortissimo Films

貴が出発する日、見送るのは恵だけだった。貴は恵に離婚を勧める。恵に敬礼をして迎えのバスに乗っていく貴を、恵は呆然と見つめる。

竜平は、ショッピングモールの清掃の仕事を始めた。

トウキョウソナタ

小学校から呼び出しの電話が入る。給食費が3か月も未納だと言うのだ。恵は、健二がピアノ教室に行っていたことを知る。かねこ先生は、健二が音楽大学付属中学を受験するようにと勧めていた。言い争いになって健二をなぐる竜平の態度を見た恵は、あなたが失業していたことを知っていると告げる。竜平の手から逃れようとした健二は、階段から落ちてしまう。

恵は健二を病人に連れていった。待合室のテレビからは、アメリカ軍が中東の兵力を増強することを決め、日本人入隊者も派兵されるというニュースが流れていた。

トウキョウソナタ

 

 

見終わった後、ドカーンと頭を打たれた感じでした。しばらく席を立つことを忘れ、現実に戻ることができず、佐々木家の生活の中にすっかり引き込まれてしまったという感じでした。

社会で働く男性たち、おやつにドーナツを手作りしても見向きもされない母親たち、そして、未来に広がっていく世界を日本という国を超えて考えようとしている若者たち、まだ子どもだからと親たちから疎外される子どもたち。父親とは、母親とは、家庭とは……。家族がばらばらになって家庭から離れていく佐々木家は、様々な問題を抱えている今の日本の家庭の代表だと言えます。かかわりをもとうともせず、自分の周囲が世界だとつい思ってしまう大人たちに向かって、小学生の健二の存在が、「見えていないぞ」「見ていないところがあるよ」と教えてくれているようです。考えさせられる作品です。

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