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 彼女の名はサビーヌ

2009年2月

ELLE S'APPELLE SABINE

彼女の名はサビーヌ

  • 監督・脚本・撮影: サンドリーヌ・ボネール
  • 共同脚本・撮影: カトリーヌ・キャブロル
  • 音楽:キャロ・ディアロ、ニコラ・ピオヴァーニ
  • 出演:サビーヌ・ボネール
  • 配給:アップリンク

2008年 フランス映画 1時間25分

  • 第60回カンヌ国際映画祭監督週間出品 国際批評家連盟賞受賞
 

むくんだように太っている女性がこちらをにらんでいる。思い通りにならないと奇声をあげ、よだれが垂れる。施設に入ってるようだ。女性の身体を動かすために、指導員か介護者は、庭の作業に連れ出す。しかし、女性はすぐ身体を横にしようとし、動くように促す介護者を叩きはじめる。

次に、若く美しい女性が映し出される。にこやかな笑顔で語り、ピアノに向かう。楽しい家庭パーティーのようだ。

この2人は同じ女性です。数々の賞に輝くフランスの女優サンドリーヌ・ボネールの1歳違いの妹サビーヌなのです。サビーヌは小さいときから自閉症でしたが、両親は気がつきませんでした。11人兄弟の7女に生まれ、小さいころから芸術的才能が見えていました。しかし、兄弟たちが成長して家を出て行くと、サビーヌは母親と2人で暮らすようになり、兄の死をきっかけに、孤立感から衝動的な暴力を現すようになっていきました。28歳のときに精神病院に入りました。しかし、5年後に病院から出てきたとき、サビーヌに以前の面影はありませんでした。

退廃的で暴力的な態度を見せるサビーヌと、病院に入る前のサビーヌの映像が対比するように流れていきます。監督のサンドリーヌは、この2つのサビーヌの姿を描くことで、何を訴えたいのでしょうか。「この作品の第一目的は自閉症のケアの現状について、公の機関に訴えることです。少なくとも、その実態に目を向けてもらうことです。自閉症者を抱える家族の代表として声を発したかったのです。……サビーヌは不安になればなるほど、暴力的になりました。暴れると薬を飲まされ、その結果、いろいろな身体能力を失い、……悪循環の連続でした。」

大声をあげ、暴力を振るうサビーヌですが、姉のサンドリーヌにだけには素直でした。「もう帰っちゃうの? 明日も来てくれる」「ええ」。するとまたすぐ尋ねるのです。「明日も来てくれる?」「ええ、サビーヌ、約束するわ」。

若いころの、あの美しいセビーヌはどこへ行ってしまったのだろう。どうしたら、あのころのセビーヌに戻れるのだろうか? それとも、もう戻ることはできないのだろうか? 自閉症の人に、どう対処したらいいのだろうか? 彼女たちが安心して過ごせる環境だったら、情緒を脅かすこともないのだろうに……。いろいろな思いがわき起こるのを感じながら、映画を見ていました。いつか、若いころの幸せそうなセビーヌを取り戻すことができますように。


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