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 マン・オン・ワイヤー

2009年5月

MAN ON WIRE

マン・オン・ワイヤー

  • 監督:ジェームズ・マーシュ
  • 撮影:イゴール・マルティノビッチ
  • 音楽:マイケル・ナイマン
  • 出演:フィリップ・プティ、ジャン・ルイ・ブロンデュー、
        アニー・アリックス
  • 配給:エスパース・サロウ

2008年 イギリス映画 95分

  • 2008年度アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門受賞
  • 英国アカデミー賞最優秀英国映画賞
  • ナショナル・ボード・オブ・レビュー・ドキュメンタリー部門
  • サンダンス映画祭ワールドシネマ審査員&観客賞
  • 全米批評家協会賞ドキュメンタリー部門
  • ニューヨーク映画批評家協会賞ドキュメンタリー部門
  • ロサンゼルス映画批評家協会賞ドキュメンタリー部門
  • ワシントンDC映画批評家協会賞ドキュメンタリー部門
  • 米国映画製作者組合賞ドキュメンタリー賞プロデューサー・オブ・ザ・イヤー
  • 放送映画批評家協会賞ドキュメンタリー部門受賞
  • ・・・その他、多数受賞。
 

早朝、数人の男女が車に荷物を積んで何かを準備しています。

時間を過去にもどして……。新聞を開いた男性の視線は、これから建設されるという世界一高いビルの広告に釘差しになりました。それは、これから建設されようとしているニューヨークのワールド・トレード・センターの2本のタワービルでした。男性は思いました。「そのビルを渡ってみたい……。

マン・オン・ワイヤー
(c)Wall to Wall (Egypt) Ltd/UK Film Council 2007

男性の名は、フィリップ・プティ。それまで世界中の高い建築物に綱を張り、綱渡りをしてきた大道芸人です。ノートルダム教会の尖塔の間、オーストラリアのオペラハウスを見下ろすハーバーブリッジ・・・。なぜ、彼は高いところに綱を張り渡るのでしょうか。そこに何があるのでしょうか。フィリップは夢を描いていました。それは、詩人として美を語ることです。

   「空に、近づきたかった。夢に、近づきたかった。」

 

彼は綱を渡り、その途中で座り、寝転んで大きな空を仰ぎました。命綱なしのフィリップの綱渡りは命がけのもので死がすぐそばに立っていました。極度の緊張感、集中力が求められますが、そこには不可思議な深淵な世界がありました。

ワールド・トレード・センターでの綱渡りを実現するために、フィリップは準備をはじめた。タワーが完成してしまえば、ビルにロープを張ることは不可能です。しかし建築中に潜り込めば、資材運びと間違えられてスムーズに入ることができるのではと考えました。タワーが最高の高さに達し、かつ、完成していない時期をねらいました。問題は、どうしたらガードマンに見つからないように侵入できるか、そして、どのようにして、ひとつのタワーからもう一方のタワーに綱を渡すかです。

1974年8月7日、準備してから8か月後に、いよいよそのときが来ました。フィリップと協力者3人は、2人ずつ2組に分かれ、それぞれのタワーに昇りました。運よく104階まで機材を運びことができた。作業員やガードマンの動きを気にしながら、さらに6階分を運びました。高さ415m、地上110階という恐ろしい高さでの綱渡りのために……。

 

マン・オン・ワイヤー

 

綱の張り具合が、成功を決めます。フィリップがワイヤーに一歩足を出したとき、「大丈夫。これなら行ける」と思いました。彼の足は綱に吸い付いているかのようです。フィリップは45分間綱の上にいて、その間に8往復していました。彼はしっかりとバランスを感じながら綱の上を歩きました。今までと同じように、綱の上に寝転び、天を仰ぎ……。

はるか地上では、大勢の人々が2つのタワーの間を行き来している米粒ほどの人を見上げていました。気がついてみると屋上には、フィリップが綱から降りるのを待っている警察官が待機しています。綱から降りて、フィリップは逮捕されました。警察官は調書に「マン・オン・ワイヤー(綱渡りの男)」と記録しました。

 

空中に張られた一本の綱の上。そこは何もない空間です。神の前では、このように人間をしばるものは何もないのかもしれません。外からも、そして内からも。ひとつのことに集中して「無」となる、フィリップはそんな「神」の空間を体験していたのでしょう。想像したら恐ろしいほど高いところで行われていることを撮影しているのですが、なんとか夢を実現しようと一心に準備していくフィリップの姿に、見ている者はすっかり吸い込まれてしまいました。


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