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 アレクサンドリア

2011年 4月

AGORA

アレクサンドリア

  • 監督・脚本:アレハンドロ・アメナーバル
  • 脚本:マテオ・ヒル
  • 美術: ガイ・ディアス
  • 衣装: ガブリエラ・ペスクッチ
  • 音楽:ダリオ・マリアネッリ
  • 出演:レイチェル・ワイズ、マックス・ミンゲラ、
       オスカー・アイザック、ルパート・エヴァンス、
       マイケル・ロンズデール
  • 配給:ギャガ

2009年 スペイン映画 2時間7分



紀元4世紀、ローマ帝国の終わりの時代。弟子たちに兄弟愛を説き続け、自分の信念に忠実に生きた実在の女性天文学者・ヒュパティアの物語です。この時代は、キリスト教が拡大していく時代でした。当時のキリスト教が描かれています。

文学と学問の中心で、繁栄していたエジプトの都市・アレクサンドリアが舞台です。アレハンドロ・アメナーバル監督は、この壮大な街の様子を、CGではなく、実際に再現しました。美しく、かつ明晰な頭脳に恵まれたヒュパティアは、キリスト教が台頭していく中で、自分が研究する天文学から分かる真実を生き抜いたことから、迫害を受けることとります。

物語

女性天文学者・ヒュパティア(レイチェル・ワイズ)の講義は人気があり、多くの弟子を前にして講義を行っていた。分け隔てなく弟子たちに接していた彼女は、「何が起きようと、わたしたちは兄弟です」と、いつも彼らに語っていた。

アレクサンドリア
  (C) 2009 MOD Producciones,S.L.ALL Rights Reserved.

当時、貧しい人々へのために働き、奴隷の身分をなくしてみんなが平等に生きようと教えるキリスト教は、多くの人、特に民衆に受け入れられ急速に発展していた。しかし、彼らに、古代の神々を侮辱された科学者たちは、ヒュパティアの父ラオン(マイケル・ロンズデール)の判断のもと、武器を持ち彼らを攻撃した。仲間がひどい目に遭わされたことを聞いたキリスト者たちは結集し、手に手に武器になるものを持ち、科学者たちがいるアレクサンドリア図書館に向かって襲いかかっていった。キリスト者たちを甘くみていたラオンたちは、いったい、いつの間にこんなに大勢の人がキリスト者になったのか……と驚きつつ、判断を誤ったことを後悔するが、時は遅かった。修道兵士を先頭にして、キリスト者たちの群れは、ますます大きくなり図書館に襲いかかってきた。

身の危険が迫っている中、ヒュパティアは奴隷のダオス(マックス・ミンゲラ)に命じ、図書館の巻物をできるだけ持ち出そうとする。しかし手にできるものはわずかで、多くの貴重な資料がキリスト者たちによって破壊されていった。

アレクサンドリア
  (C) 2009 MOD Producciones,S.L.ALL Rights Reserved.

2つの勢力の争いは、ローマ皇帝によって裁かれることになった。皇帝は、科学者たちを責めないかわりに、アレクサンドリアの図書館はキリスト者たちに渡されることとした。

キリスト教に心を傾けていたダオスは、ひそかに慕うヒュパティアのもとにとどまるべきか、または、キリスト教に改宗して奴隷の身分から解放されて自由になるか迷っていた。そんな彼に対し、ヒュパティアは奴隷のしるしである首輪をはずし、「あなたは自由よ」と解放する。

アレクサンドリア
  (C) 2009 MOD Producciones,S.L.ALL Rights Reserved.

この事件から、アレクサンドリアでは、キリスト教とユダヤ教だけが認められることになり、異教徒たちは生きていくためにキリスト教へと改宗していく。

数年後、ローマ帝国が東西に分裂し、ヒュパティアの弟子たちは、それぞれ責任者の立場となっていた。ヒュパティアとの結婚を望んでいたオレステス(オスカー・アイザック)は、生きていくためにキリスト教に改宗してアレクサンドリアの長官になった。温厚なシュネシオス(ルパート・エヴァンス)は主教になり、指導的立場にあった。

アレクサンドリア
  (C) 2009 MOD Producciones,S.L.ALL Rights Reserved.

勢力を増したキリスト教徒は、今度はユダヤ教を弾圧し始めた。温厚な主教が亡くなった後、次に主教となったキュウリロス主教(サミ・サミール)は、アレクサンドリアの支配権を狙っていた。キリスト教へ改宗しない者を皆殺しにしようとしていた。オレステスはヒュパティアに改宗を進めるが、信念を見失ってはいけないと、改宗を受け入れなかった。オレステスを引き下ろそうと企ているキュウリロスは、オレステスが心を寄せているヒュパティアに目をつける。

アレクサンドリア
  (C) 2009 MOD Producciones,S.L.ALL Rights Reserved.
 

 

当時のキリスト教の姿が映し出されているのですが、見ていて苦しくなります。彼らは武装しており、勢力拡大のためには、人殺しをしていくのです。

現代のキリスト教は、イエスを「平和の君」「非暴力を生きた人」として見ますが、「剣をさやにおさめなさい」と言われたイエスの姿を見る者は、当時はいなかったようで、異教徒の暴力に対して暴力で向かっていきます。暴力と暴力の戦いです。その中で、どちらにも組せず、天体だけを見つめていたヒュパティアを、キリスト教の長上たちは、影で政治を操っている「魔女」として処刑します。こういう姿勢が、中世の魔女狩りにつながっていくのでしょう。

このようなキリスト教の姿を見ながら、宗教自体も、時代とともに成長し、信仰理解を深めていくのだなと思いました。イエスの教えに従い、貧しい人々に救いの手をさしのべている姿と、勢力を増すために、武器を持って異教徒を殺害していった姿が共存する、当時のキリスト教です。

レイチェル・ワイズ演ずるヒュパティアが、自分の信念に生きる才女として、とても魅力的です。

壮大なスペクタクルの歴史映画として、また、学問を究め弟子たちに「信念を見失ってはいけない」「わたしたちはみな兄弟だ」と教えるヒューマンドラマとして、または、自分を見失わずに生きる一人の女性の物語として、さらに、大切な人を守ろうとする愛の物語として、そして、何を信じて生きていくのかというキリスト教の歩みを理解する信仰の話として……、たくさんの宝を持っている作品です。


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