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 ヒミズ

2012年 1月

ヒミズ

  • 監督・脚本:園子温
  • 原作:古谷実『ヒミズ』(講談社ヤングマガジン)
  • 音楽:原田智英
  • 出演:染谷将太、二階堂ふみ、渡辺哲、吹越満、
        光石研、渡辺真起子
  • 配給:GAGA

2011年 日本映画 129分

  • 第68回ヴェネチア国際映画祭最優秀新人俳優賞W受賞

「ヒミズ」は、2001年から週刊ヤングマガジンで連載が始めった古谷実氏の作品で、単行本発行部数は4巻で150万部以上のベストセラーとなり話題となりました。多くの人からマンガの中のマンガと評され、映画化が望まれていましたが、鬼才・園子温監督が染谷将太、二階堂ふみという若い2人を迎えて製作し、待ちに待った公開となりました。


物語

川岸にある貸しボート屋に住む住田祐一は(染谷将太)は、15歳。祐一は、「ここでのんびりボートを貸して、大きな幸せもないけれど不幸もない、一生普通に暮らすこと」といつも言っている。クラスメートの茶沢景子は、祐一の言葉を紙に書き、部屋中に貼っている。祐一は景子のことをまったく意識していないが、景子は何かと祐一につきまとっており、放課後はボート小屋に顔を出す。

ヒミズ
(C)2011「ヒミズ」フィルムパートナーズ


ボート小屋の近くには、震災で家を無くした夜野(渡辺哲)や圭太(吹越満)がテントに住んでいた。学校から帰ってくると、祐一は貸しボートを始め、夜野や圭太が集まってきて世間話を始めるのが日課だった。祐一は、夜野や圭太から、立派な大人になるだろうと、尊敬され頼られていた。

ヒミズ
(C)2011「ヒミズ」フィルムパートナーズ


しかし、祐一の父(光石研)はほとんど家に帰らず、たまにフラッと帰ってくるときは、いつもひどく酔っていた。そして祐一を見ては、「どうして生まれてきてしまったんだろうねぇ」「おまえはいらないんだよ」と何度も言いながら金を求め、お金はないと言うと祐一に暴力を振るっていた。

一方母(渡辺真起子)も、男を連れ込んでは夜になるとお金を置いて仕事に出ていった。しかしある日、ついに中年の男性と出ていってしまった。

景子も、両親の間に愛情はなく、母親からは「親に向かってその言い方はなんだ!」と暴力を振るわれていた。

親からの愛を受けられない2人。祐一に近づこうとする景子をうるさいと思っていた祐一だが、彼女の一途な思いに、次第に心をほぐしていく。

ヒミズ
(C)2011「ヒミズ」フィルムパートナーズ


ある日、父親に貸した金を返せと借金取りの2人がやって来る。彼らの恐ろしい暴力を受けながらも祐一は「必ず立派な人間になる!!」と叫びながら、その苦しみに耐える。

そんなとき、また父がボート小屋にふらりとやって来た。「しぶといな~。おまえはいらないんだよ」と、また同じ言葉を繰り返す父に対して祐一は耐えられなくなり、気がついてみると……。

 

愛情のない両親からは存在を否定され、しかし、周囲の大人からは尊敬され将来を期待されている、このギャップは何なのでしょう。暴力に目を覆いたくなるのですが、何かすごいことを伝えようとしてる作品だと思います。

生きるって何なのか、大人になるってどういうことなのか。また大人になっている人々には、若い人々に伝えられるような生き方をしているのか? 幸せか? と問われます。

しかし希望があるのは、大人たちがどんなにダメになっても、欺瞞に満ちていても、若い人たちはそれを乗り越えてまっとうに生きていく力があるということです。子どもでもなく大人でもない中学生とは、そういう年代なのでしょう。彼らは、家庭や地域の大人たちの生き方を見て、それに振り回されずに、自分の力で考えていく力を持っているのです。その意味で、子どもから大人になっていく道の始めに立っているのです。

全身泥まみれになっての染谷将太君の熱演と、祐一を「生きろ!」と強い愛で突き動かす同級生の茶沢景子の狂気のような真っ直ぐな演技をした二階堂ふみに対して、第68回ヴェネチア国際映画祭は、最優秀新人俳優賞(マルチェロ・マエストロ賞)を与えました。日本人初の快挙として、昨年ニュースで報じられました。

祐一と景子のこのエネルギー爆発の姿を、同世代の中学生たちはどう見るのでしょうか? 興味のあるところです。

撮影準備のときに3.11が起き、園監督は、映画の時代設定を震災後の日本に変更しました。当たり前だったそれまでの生活の何もかも崩れてしまった中で、祐一は何を思っているのでしょう。このシーンは、映画のテーマを現実レベルに落として、よりリアルになっているように感じました。


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