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 嘆きのピエタ

2013年 6月

PIETA

嘆きのピエタ

  • 監督・脚本・編集・エグゼクティブプロデューサー:キム・ギドク
  • サウンドデザイン:イ・スンヨプ
  • 音楽:パク・イニョン
  • 出演:チョ・ミンス、イ・ジョンジン
  • 配給:クレストインターナショナル

2012年 韓国映画 104分

  • 第69回ベネチア国際映画祭金獅子賞
  • 第49回大鐘賞映画祭 (韓国) 主演女優賞(チョ・ミンス)・審査員特別賞(キム・ギドク)
  • 第32回韓国映画評論家協会賞(韓国)最優秀作品賞・監督賞(キム・ギドク)・主演女優賞(チョ・ミンス)・国際批評家連盟賞
  • 第6回アジア太平洋映画賞審査員大賞(チョ・ミンス)
  • 第13回東京フィルメックス観客賞
  • 第33回青龍映画賞(韓国)最優秀作品賞
  • 第17回サテライト・アワード 外国語映画賞
  • 第9回ドバイ国際映画祭 アジア・アフリカ長編コンペティション部門 最優秀監督賞

「ピエタ」とはイタリア語で憐れみとか慈悲を意味しますが、この言葉を聞けば、バチカンのサン・ピエトロ大聖堂にあるピエタ像を思い浮かべます。ミケランジェロ製作の大きな像は、十字架上でなくなったイエスを、聖母マリアが両の膝の上にしっかりと載せ、右腕でイエスの肩を支え、左手はイエスの痛々しい姿を嘆くように外に向けています。青年になったイエスは家を出て、弟子たちとともに宣教の旅を続けました。人々のために働いたイエスが、極刑にあったとはいえその使命を果たし終えてやっと自分の元に帰ってきてくれたという母として安堵感も含まれているのかもしれません。生涯にわたってイエスを遠くから支え続けた聖母の力強さが表現されている作品です。

その「ピエタ」をタイトルにしていることからして、この映画は、母と息子を描いたもので、それも息子の悲しい姿を見守る母であろうということは、想像できました。しかし、そんな簡単なことではありませんでした。こういう母の行動があるのかと、想像できない話の展開をキム・ギドク監督は表現しています。


物語


板金、ネジ作り、金型など、家族だけで働いているような貧しい工場が並ぶ清渓川(チョンゲチョン)周辺の地域は、どこの家も借金をして工場をやりくりしていた。借金の取り立て屋イ・ガンド(イ・ジョンジン)が一軒、一軒回ってくる。この男の姿を見たら。借り主は覚悟を決める。というのも、彼の取り立ては、自分が障害者になるということだからだ。借金の返済は、工場の機械によって、または高いところから落とされて、重傷を負って障害者となり、それに払われる保険金を返済金として取り上げていくという手荒な方法だった。「やめてくれ!」と懇願する母や妻の願いも空しく、人としての感情がないようなガンドは、黙々と自分の仕事を果たしていく毎日だった。けがを負ったその家族は、さらに苦しい生活へと追い込まれていった。

嘆きのピエタ
(C) 2012 KIM Ki-duk Film All Rights


ある日、彼の前に、か細い声で「ガンド」と声をかける女性が現れた。ガンドの母親だと名乗るこの女はチャン・ミソン(チョ・ミンス)といい、ガンドを捨てていったことをしきりに詫びるのだった。突然やってきたこの女性を母だとは信じることができないガンドは、ひどい目にあわせ、何度も追い払う。しかしミソンはガンドの行為にひるむことなく、ガンドの前に現れ、母としての思いを伝えていく。

嘆きのピエタ
(C) 2012 KIM Ki-duk Film All Rights


やがて、ミソンはガンドのアパートで暮らすようになる。帰りを待っているミソンの作った食事を食べ、自分が食事をしている間、そばでミソンが手編みをしている光景は、どこにでもある母と子の姿だったが、ガンドにとってははじめての体験だった。次第にガンドは、母親がいることの安心感を抱き始めていった。

嘆きのピエタ
(C) 2012 KIM Ki-duk Film All Rights



 

息子を思う母の心は、深い愛情に満ちていますが、それは息子のためには鬼のようにもなります。自分の思いをひた隠し、母としての姿を演じるチョ・ミンスと、人としての感情を持たない冷酷な青年から、母を思う切ない心を持った人間になることを垣間見させるイ・ジョンジンの演技は、気迫に満ちていてました。

神と人々に、どのように償いを果たしていくか……、最後の結末は驚きであり心に残ります。


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