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ダブリンの時計職人

2014年 3月

ダブリンの時計職人

  • 監督:ダラ・バーン
  • 脚本:キーラン・クレイ
  • 出演:コルム・ミーニイ、コリン・モーガン、ミルカ・アフロス
  • 配給:アップリンク

2010年 アイルランド・フィンランド映画 1時間34分

  • ブリュッセル映画祭観客賞受賞
  • ゴールウェイ映画賞最優秀初長編賞受賞
  • マンハイム=ハイデルベルグ国際映画祭最優秀作品賞受賞

ケルトミュージックで有名な北の国・アイルランド。1993年から2007年まで、経済成長を遂げましたが、その後、景気の後退と財政危機がやってきました。2010年のギリシャ債務問題によるユーロ圏の財政懸念の中、アイルランドも経済の見通しは危うく先は暗い様子です。厳しい経済状況の中で暮らす人々の生活の中から、本作品は生まれました。


物語


止める場所を探して一台の車が、海辺の駐車場に入ってきた。ロンドンで働いていた時計職人のフレッド(コルム・ミーニイ)は失業し、故郷ダブリンに帰ってきたが、宿はなく、仕方なく自分の車に寝泊まりすることにした。場所を定めるたフレッドは、車から降りて海に向かって置かれたベンチに座り、目の前の海を眺めた。アイルランド・ダブリンの海は暗く荒れていた。

車の中で暮らせるよう、車にはコーヒーを沸かせるようになっているなど何でもそろいえていた。フレッドはトイレで身体を洗い、近くの店で食事を買った。しかし、ホームレスとなった現状がまだ受け止められず、この先どうしていいか考えることができずにいた。役所に失業保険の申請をしても、定まった住所がないからと受付を拒否された。住所がないと、郵便物を届けることができないからだ。なんど通っても進展はなかった。

間もなく、駐車場の端に、一台の車が止まった。やはり駐車場にとまり続けている。カハル(コリン・モーガン)という青年は、ドラッグをやっているらしく、やせ細って目が落ちくぼみ荒れた生活を送っていた。ドラッグを買うために借金取りがやってきて暴力を振るわれた。

ダブリンの時計職人


フレッドとカハルは、プールに行くようになった。飛び板から、なかなかプールに飛び込めないフレッド。フレッドは、スイミングプールのコースに参加している一人の女性に魅かれた。夫を亡くし、大きな家にひとりで住み、ピアノを教えているジュールス(ミルカ・アフロス)だった。ジュールスは、フレッドをスイミングスクールのコースに招き、何かと世話をしてくれた。ジュールスの家に招かれたフレッドは、「家」というものに久しぶりに触れ心が和んでいった。止まっていた置時計を直してあげることにした。

ダブリンの時計職人


ダブリンの時計職人


「木の葉の落ちるところを見たことがあるか」と問うカハル。彼の心の闇を知るようになったフレッドは、カハルが持っていた壊れた腕時計を修理してあげた。それは、カハルが父からもらったもので、唯一大切にしている物だった。フレッドはカハルを立ち直させようと心を砕いた。フレッドの前で薬を止めると宣言し、次第に素直になっていくカハルは、父親に返済のために助けてもらおうと、勇気を持って実家に帰った。しかし、父親から、お金は払えないと断られた。絶望したカハルは……。

 

人生のどん底で見る海の景色は、生活に不安がなかったころにはまったく感じることができなかった、味わい深いものとして迫ってくるのでしょう。アイルランドの風景が、この映画の大切な背景となっています。

ドラッグにおかされ夢の中をさまよい、闇の中で苦しむカハル役のコリン・モーガンの演技は迫力があります。主人公のフレッドは、カハルを息子のように心配し心を通わせていき、希望のない日々の中で、他者を思いやる包容力があります。父親以上だったかもしれません。カハルの父親への思いは父親には通じない。実の父親にはわからない若者の苦しみ悲しさも、引き受けて、フレッドはこれからも生きていきます。


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