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母と暮せば

2015年12月

母と暮せば

  • 監督:山田洋次
  • 脚本:山田洋次、平松恵美子
  • 音楽:坂本龍一
  • 出演:吉永小百合、二宮和也、黒木華、浅野忠信、
         加藤健一
  • 配給:松竹

2015年 日本映画 2時間10分

  • 松竹120周年記念映画



終戦70年を記念する2015年、「生涯で一番大事な作品をつくろうという思いで製作にのぞんだ」という山田洋次監督の最新作が、いよいよ公開のときを迎えました。広島で「生き残った自分が幸せになってはいけない」と思いひっそりと暮らしている娘と、そんな娘を心配する亡霊の父とのやりとりを戯曲「父と暮らせば」に現れした井上ひさし氏の思いを受け継いだ山田洋次監督は、「父と暮らせば」と対になるような作品にしたいと思いました。広島に対して長崎、父と娘に対して、母と息子。キャストを考えたとき、母親は吉永小百合さんしかいないと思い、息子役には、「硫黄島からの手紙」で押さえた演技に驚いたという二宮和也さんに決め、その後、脚本を書き始めたと言っています。山田洋次監督は、この作品にどのような思いを託したのでしょう。


物語

長崎港を見下ろす坂道の一番高いところにある助産院で、助産婦として働いている伸子(吉永小百合)は、すでに夫は他界し、出征した長男も戦争で亡くし、医学生の次男・浩二(二宮和也)も長崎の原爆で亡くし、一人で暮らしていた。浩二の遺体は見つからず、伸子はあきらめきれていなかった。原爆から3年後の8月9日。やはり浩二を忘れることができずにいる、浩二が結婚を約束していた町子(黒木華)と墓参りに行った伸子は、「浩二のことは、もう、あきらめよう」と町子に語りかけ心に決めた。

 母と暮らせば
(C) 2015「母と暮せば」製作委員会


その晩、夕食の準備をしていると、人の気配を感じた伸子が振り返ると、「母さんはあきらめが悪かとね。なかなか出てこられんかったとさ」と明るく語りかける浩二が、階段に座っていた。「浩ちゃん!」と呼びかけ、息子との再会に喜ぶ伸子。その日から、浩二はたびたび母の元に現れるようになった。

小学校の先生となった町子は、浩二を失った伸子のことが心配で、時間を見つけては伸子の元を訪れていた。また、闇物資を扱っている「上海のおじさん」(加藤健一)が、闇で見つけた珍しい食品を、伸子に届けてくれていた。下の家の富江も夫を失い、小学生の息子とともに暮らし、一人暮らしの伸子を気にかけてくれていた。

伸子は、浩二と思い出を話しながら、かつての二人での生活が戻ったように感じ、彼が現れるのを望むようになった。

 母と暮らせば
(C) 2015「母と暮せば」製作委員会



 

浩二も伸子も、よくしゃべりします。楽しい二人の会話を聞いていると、夫と長男を亡くした伸子が、浩二との暮らしを、いかに大切にしていたかが思われます。下の家の人と、上海のおじさんと、そして町子と、周囲の人々とともに生きてきた当時の人々の密な暮らし方を創造しながら、見ていました。先に天国に行ってしまった家族を思う気持ち、地上に遺してきた家族を気遣う気持ち、ネット世界でのかかわが広がる中で、直接にかかわることの温かさを味わいました。

「それが僕の運命さ」と語る浩二に対して、「運命? 違う。例えば地震や津波は防ぎようがないから運命だけど、これは防げたことなの。人間が計画して行った大変な悲劇なの。」山田洋次監督の思いが、この言葉に託されているように思います。


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