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シスター三木の創作童話

クリスマスプレゼント

家に帰るお父さん

 ここは北国の小さな町です。いつもは静かなこの町も12月のなかばを過ぎると、近づいてくるお正月気分が町中にただよって、にぎやかにざわめいてきます。それに遠くへ働きに出ていた男たちが帰ってくるからです。どの家も、待つ喜びにあふれていました。

 「お母さん。お父さん、クリスマスまでに帰ってくるよね」
 「そうよ。クリスマスはいっしょに教会にいくぞって、お父さんがいってたものね。お隣のおじさんも帰って見えたから、お父さんも、きょうかあすぐらいだろうと思うけどね」
 「お父さん、クリスマスプレゼント、買ってきてくれるよね。ぼく、日曜学校にちゃんといってたもの」
 「そう、マサオもよくがんばった! さあ、お掃除の方も、もうひとがんばりだよ。お父さんが帰るまでに、家中を、ぴかぴかにしてきれいにしておかなくちゃね」
 マサオくんの家は、このあたりでは、めずらしくクリスチャンでした。近くに教会がないので、バスで5つ先の町の教会に通っていたのでした。

今年は雪がはやく降りました。マサオくんは寒い朝など、
 「せっかくの日曜日だもの、ゆっくりと寝ていたいなあ。タツオのとこなんかいいなー 信者じゃないから、日曜日は、ゆっくりと寝てられるもんなあ、ああ、9時からおもしろいテレビがあるんだけどなー」
 「マサオ、はやく起きて仕度をしなさいよ。ぐずぐずしてたら、ごミサにおくれるよ」
 お母さんはもう、出かける仕度をしています。お母さんといえば、お父さんが出かせぎにいっていらい、日曜日のごミサを休んだことがないのです。マサオくんは、たびたび思うのです。
 「熱心すぎるよなあーうちのお母さんは、まったく。お母さんにあわせていくのって、つかれるよー もう!」
 でも、それ以上反抗はしません。ぐずぐずしながらでも、なんとか出かけていきます。
 「マサオ、お父さんはね、新しい道をつくったり、橋をかけたり危険な仕事をしているのよ。お父さんの無事をイエスさまにおねがいしなくちゃ・・・でしょう。それなのに、そんなにぐずぐずしていて、いいと思うの。これまでお父さんが無事で働いていてくださるのもみんな、神さまのおかげなのよ・・・」
 「うんわかったよ。これから神さまのこと日曜学校でよく勉強するから・・・」
 そういうと、お母さんのおこごとは、止むのです。マサオくんは、お母さんをだまらせるコツをわきまえていました。

 クリスマスまであと3日、マサオくんのお母さんは、だんだん落ちつかなくなってきました。お父さんと一緒に働いていたという近所の人に聞いてみました。ところが、お父さんとはいっしょに工事現場を出た、というのです。お母さんのことばも、だんだんとなくなっていきました。お母さんは、この仕事をしていたかと思うと、こんどはあっちの仕事というように、落ちつきなく、あれやこれやとどれも中途半端な仕事をしているのです。マサオくんは、そんなお母さんを見て、お母さんが、どんなにお父さんのことを心配しているかがわかりました。
 「−ああ、ぼくが、なまけ心を起こしたのがいけなかったのかなあ−イエスさま、ごめんなさい。ぼく、もうけっして、日曜学校をサボリたいなんて考えないことにします。どうかお父さんを無事に帰してください」
 マサオくんの祈りも真けんになってきました。
 「ぼく、もう、クリスマスプレゼントなどいりませんから、お父さんを帰してください」
 お母さんも、心の中で祈っていました。

教会に行くお母さんとマサオくん

 北国の小さな町では、出かせぎにいった男たちが、帰ってこなかったということも、度々耳にしていたからです。とうとう24日になりました。ミサに行く時間です。マサオくんはもうとっくに着替えていました。こんなとき、ぐずぐずしていて、お母さんに気をつかわせてはいけないとわかったからです。
 「お母さん、時間だよ。教会へいこうよ。お父さん、きっとあとからくるんだよ」
 「そうね・・・。そうかも知れないね」
 2人は、3人で歩くはずだった道を、石のように重い心をかかえて、だまって歩いていきます。

 その頃、お父さんの心は、特急列車の中で走っていました。車窓から見える町の灯が、暗やみの中に流れていきます。それなのに、お父さんは、鈍行列車にでものったかのようにスピードがおそく感じられ、いらいらしてくるのでした。


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