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シスター三木の創作童話

きいろい花ならなんでもあります

 春がすぐ近くまできています。けれどまだ寒いある日のことです。ひとりの女の子が、町の花屋あんにやってきました。

 「“きいろい花なら、一応なんでもそろっています”ですって。ちょうどいいわ」
 女の子は、目をかがやかせて、自動ドアの前に立ちました。

 「いらっしゃい。おじょうちゃん。なにをあげましょう」
 「あの、きいろい花なら、なんでもありますか」
 「はい、一応そろっているつもりですよ」
 「あの、それじゃ、たんぽぽの花をください」
 「えっー。たんぽぽね。まいったな。たんぽぽのお花は、おいてないんですよ。たんぽぽの花はね、お日さまがあたらないと、つぼんでしまうでしょう。だから・・・」

 女の子は、見ていてもかわいそうなくらい、しょんぼりしてしまいました。花屋のおじさんは、女の子の背までかがみこんでいいました。
 「おじょうちゃんの家の近くに、たんぽぽはないのかな。そうだな、花が咲くには、ちょっとはやすぎるかな。どうしても、たんぽぽがほしいの。ほかのきいろい花じゃだめなの」
 「ええ。ママが病気なの。でもね、たんぽぽの花を見たら病気がよくなるって、いっているの。だから、わたし、ママのために、どうしても、たんぽぽの花がほしかったんです」

マーちゃんとまっきいろのたんぽぽ

 花屋のおじさんは、女の子のお母さんが、いいたいことがわかりました。あたたかい春になって、たんぽぽが咲くころになったら病気がなおるでしょうって、いいたかったのだと思いました。けれど、花屋のおじさんは、たんぽぽの花を見せてあげたら、ママの病気がはやくよくなると信じこんでいる女の子を見ていると、とてもいじらしくて、なんとかしてあげたい気持ちになっていました。

 「そう。おじょうちゃんの家は、どこ。おじさんに、住所を教えてくれないかな」
 女の子は、ひらがなで住所を書いて、おじさんにあげました。女の子は、“おじゃましました”といって帰っていきました。お行儀のいい女の子でした。

 女の子は、帰り道、ぼんやり見ていた商店街のウインドのひとつに、きいろいたんぽぽをつけたドレスがあるのに気づきました。それは、白い毛糸のドレスにきいろの毛糸のボンボンがたくさんついていて、まるで、たんぽぽのドレスのようでした。
 「そうだ。きいろの毛糸をかって、ボンボンをつくるわ。そしてみどりの草の上におくの、たんぽぽみたいに」

 女の子は、お店に入って、まっきいろの毛糸をひと玉かいました。女の子は、家に帰ると、おばあちゃんから、ボンボンのつくり方を習うことにしました。おばあちゃんは、ガサガサの手に毛糸を引っかからせながら、ボンボンのつくり方を教えてくれました。
 「マーちゃん、きいろいボンボンをつくってなにするの」
 「ひみつだよ。おばあちゃんにもひみつなの。あしたになったらわかるわ」
 「そう。じゃ、あしたのおたのしみってわけね」

 朝になりました。女の子は庭の草の上に、きいろい毛糸のボンボンをまき散らそうと思って外に出ました。そのとき、門の格子の下から、浅い木箱がさしこんであるのに気づきました。そして、その箱の中には、たんぽぽが植えられていたのです。
 「あら、ほんもののたんぽぽよ。だれかしら・・・。ああ、そうだ、花屋のおじさんだ」

 女の子の声で、おばあちゃんが出てきました。
 「あら、まあ、たんぽぽじゃないの。どなたがくださったの」
 たんぽぽの箱の中には、紙きれがおいてありました。“このたんぽぽを庭におろしてやってください。来年は、きっとふえていますよ”と書いてありました。
 「しんせつなおじさんね。ママの病気、きっとよくなるわ」
 「そうよ、春になってあたたかくなったら、ママは、必ずよくなりますよ」
 おばあちゃんも、そういいました。女の子とおばあちゃんは、たんぽぽを庭に植えました。

 「ママ、見て! たんぽぽが咲いたわよ」
 女の子がそういったとき、家の窓辺には、白い顔のお母さん、みだれた髪をかきあげながら、“にっこり”ほほえんで立っているのが見られました。そして、
 「ありがとう、マーちゃん。たんぽぽを見たから、ママは、もうすぐよくなるわ」
って、いっていたのでした。

 まっきいろのたんぽぽ、そう、お日さまのこどものようなたんぽぽは、春のあたたかさを、呼びよせてくれるにちがいないのです。


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