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いのちの始まりを大切にする社会へ

2007/05/08

昨年の暮れから「赤ちゃんポスト」(こうのとりのゆりかご)という言葉が、頻繁にニュースで聞かれるようになりました。熊本市の慈恵病院で、自分で育てられない赤ちゃんを受け入れるというものす。「赤ちゃんポスト」という名称がよくないとか、「捨て子を助長するのでは」「小さな命が救われるのです」と賛否両論が飛び交っています。そんな中、年を越した4月5日、やっと熊本市の設置許可がおりました。それを受け手、病院では設置の準備をはじめ、5月1日、病院の新生児室の外壁に「赤ちゃんポスト」が設置されました。5月中旬から、受け入れが開始される運びになりました。

4月15日、「お母さんと赤ちゃんを、1円でサポートしよう!」という趣旨で一円の募金活動をしている「NPO法人円(エン)ブリオ基金センター」の“全国集会&生命尊重シンポジウム”が行われ、そこで「赤ちゃんポスト」について考えました。会場となった江戸東京博物館小ホールは、いのちを大切にしようと訴えるたくさんの女性たちでいっぱいになりました。

赤ちゃんポスト 赤ちゃんポスト

あいさつに立った円ブリオ基金センター副理事のシスター湯原美陽子(元カリタス短大学長)は、「いのちは神秘。神の心の中にある秘密である」と語り、続いて、内閣総理大臣補佐官の山谷えり子氏から、「国会報告」が行われました。注目したいのは、4月5日、厚生労働省から全国の児童福祉関係者に、母親たちの相談にのり、彼女たちの援助をするようにというお達しがまわったということでした。

赤ちゃんポスト 赤ちゃんポスト
シスター湯原 山谷えり子氏

その後、理事の千葉茂樹氏(映画監督)の司会でシンポジウムに入りました。まず理事の田口朝子氏から、今までの歩みが紹介されました。「赤ちゃんポスト」は、すでにドイツでは広く活動が行われています。2004年、ドイツでの「赤ちゃんポスト」を取材したビデオが完成しました。このドキュメンタリー映画を見た慈恵病院の蓮田医師が、日本での「赤ちゃんポスト」設置へ動きを起こしました。

 

赤ちゃんの命が大切にされないのは、日本だけのことではありません。海外でも、ヘソの緒がつけられたまの赤ちゃんがゴミ箱にすてられていたり、コインロッカーに置き去りにされていたりしています。田口さんは、千葉監督とドイツに渡り「赤ちゃんポスト」を見てきたポストの数は、ドイツでは、2年間に40箇所に広がっていったそうです。しかし、日本ではどのように広めていったらいいのだろうと、田口さんらは、映画を上映しながらも悩んでいたそうです。そこへ、ビデオを見た蓮田先生が名乗りを上げてくださったのです。望まない妊娠をした女性たちの悩みを聞く場所を用意したい、そう思っていた蓮田先生でした。「ゆりかごの存在が知られることで、母親が事前に病院に相談し、その結果『赤ちゃんポスト』に赤ちゃんが入れられないのなら、それでいい」と蓮田先生は言っています。あくまでも、命を助けられ、命を助けようとする意識の向上に役立てば……ということでした。

赤ちゃんポスト
田口さん

慈恵病院では「妊娠かっとう相談」をしています。今まで5年間に200人からの相談がありました。中には考える力をなくしている母親もあり、赤ちゃんを少し預かって考える時間をもてるようにしているそうです。公園で一人で生んだが、育てられずに捨てたと語る女性もいたというころです。

シンポジウムは、いろいろな視点から「赤ちゃんポスト」について考えました。発言は次のような順番で進められました。


提  起:「こうのとりのゆりかご」蓮田太二氏慈恵病院副理事長
コメント:法医学の立場から平和研究所副所長武蔵野大学教授
コメント:刑法の立場から金澤文雄氏広島大学名誉教授
提  起:娘の戦い----交通事故の胎児障害細野雅弘氏胎児と子供の命を守る会代表
コメント:出産の立場から井手 信婦人科医師 聖マリア学院大学長
コメント:妊娠かっとう相談制度の導入を金澤文雄  

赤ちゃんポスト


以下、簡単にご紹介します。


提起:蓮田先生
 生命尊重の会に参加したとき、せっぱ詰まった人たちがいるんだと思った。ドイツの視察をしたとき、日本ではそれほどではないと思っていたが、熊本に戻り、慈恵病院で相談受付を続けている中で、3件の事件が起きた。そのことから、「赤ちゃんポスト」の設置を決めた。しかし、設置に対して法的に問題があるのではないか、つまり、遺棄ほう助になるのではないかという懸念があった。


コメント:佐藤氏
 毎年、150件の虐殺がある。そのうち、嬰児殺害は30件だ。無理心中で亡くなる子どもたちと合わせると150件になる。理不尽な扱いを受けている人たちの解放を考える必要があると思う。赤ちゃんを捨てた人は、保護者責任遺棄、致死となるが、受け取る方=病院は、生活保護になるから、法的には問題ない。病院側は、悩む人々の出産の相談を受けることができる。

 いろいろな虐待の基には、子どもの虐待があると思う。お母さんの妊娠中に問題がある。妊娠中の母親を一人にしないことが大切だ。相談に乗ってあげることができたらと思う。

 捨て子を助長するのではないかという声があるが、ドイツを見て、ポストの設置後は数が増えるのではと想像していたが、設置した前と後とで、赤ちゃんを捨てる数は変わっていないということだ。


コメント:金澤氏
 匿名性の問題だが、匿名を禁止する法律はない。


蓮田先生
 昨年の11月の報道後、相談の数が増えた。それも深刻な内容が多くなっている。地域としても、北海道から九州・沖縄までの広い地域からの相談が来ている。

 ドイツでは、かっとう相談の後匿名出産をして、マザー・チャイルドハウスで8週間過ごします。そうして自分で育てるか養子に出すかを決めます。8週間を一緒に過ごす間に愛情がわき、自分で育てようとするかもしれません。日本の場合は、赤ちゃんが来たら養護施設で育てるようになります。

 これから設置する「赤ちゃんポスト」では、病院側が赤ちゃんを受け取ったら、看護部長が福祉総合相談所と(児童相談所)、警察署(刑事課)、熊本市役所にすぐ連絡する手はずになっている。

 「赤ちゃんポスト」後の歩みとして、里親制度や養子縁組制度の改正が求められる。

赤ちゃんポスト
細野氏(左)と蓮田先生


提起;細野氏
 胎児が人間として扱われていない現実がある。交通事故の被害者の立場として、北海道から来た。

 3年前、妻と2人で車に乗っていて事故に遭った。正確には2.5人である。妻は妊娠9か月だった。事故に遭い、子どもは帝王切開で生まれた。女の子だった。娘は、生まれて10時後に亡くなった。しかし、事故に遭ったとき、娘はまだ出産されていなかったので、致死罪にはならず、妻に対する傷害罪だけだった。娘には戸籍が発行されなかった。事故のとき、母親の体から、胎児の一部が出ていなけば、人間として扱われない。事故の査定では、胎児の査定は安くなる。自閉症の子どもも、交通事故の査定はゼロ査定である。この辛い体験から、胎児の人権をサポートしていく必要性を感じ「胎児と子供の命を守る会」を立ち上げた。


コメント:井手先生
 「胎児は人間か」という問題が出てくる。産婦人科医として37年働いてきた。聖マリア病院は、昔の産科学と新しい出産医学の変わり目にできた。昔は赤ちゃんの形だけを見ていて、お腹の中で赤ちゃんが生活していると考えられていなかった。今は違う。超音波診断の機会をできるだけ作って、母親が赤ちゃんとの対話の時間をふやしてもらっている。赤ちゃんは羊水の中で、羊水を飲んだりする。それによって腎臓が働き、膀胱が大きくなり羊水の中に排出する。その様子を、超音波でしっかりと見ることがでる。感動する。


コメント:金澤氏
 新生児の定義はあるすが、胎児についてはない。妊娠かっとう相談は、ドイツから広がって、今ではヨーロッパ各地にある。ドイツでは1995年に刑法を改正し、12週までの中絶を認めるようになった。しかし、相談所に行く義務があり、行かない場合の罪は重い。かっとう相談の目的は、胎児の命を守るということだ。この4月から、専門の相談員を置くように法律で定められています。


蓮田先生
 厚生労働省との関係で、熊本市は悩んだ。許可は2週間ほどで下りると思っていたが、5か月かかった。最終的には(幸山)市長の勇断だった。その後、女性からの相談は、全国から来ている。一番大変だったのは看護部長だ。高校や大学からの講演依頼がたくさん来た。女性でないと女性の苦しみは分からないということを痛切に感じた。


質問:私たちにできることは何でしょうか?


井手先生
 かっとう相談ができるために、教育機関に呼びかけてほしい。悩んでいる女性から出ているサインを、先へ先へとキャッチしていくことが重要だ。子供と女性の安全が保証されない国は亡びる。

赤ちゃんポスト
右から佐藤氏、金澤氏、細野氏、蓮田先生、井手先生、千葉氏



金澤氏
 円ブリオの働きを、広げていくことが大切だ。


細野氏
 今は、胎児と子どもが分けられているので、法律が改正され、胎児も含めて子どもの命を守るとなればいいと思う。他の命を大切にするためには、想像力を働かせる必要がある。


蓮田先生
 こういう取り組みをやっていて、家庭での取り組みが大切だと痛感している。家庭で、子どもたちにきちんと教えることが大切。


千葉氏
 細野さんから「想像力」という言葉が出たが、監督に成り立てのころ、吉村公三郎監督に「想像力はどうしたら身につきますか?」と尋ねたことがある。「思いやりだよ」という返事が返ってきた。目の前の命に寄り添っていくことが大切だと思う。


まとめの言葉

 

最後に、円ブリオ基金センター理事長の遠藤順子氏が、「悩んでいるお母さんたちに対する思いやりを……」と訴えて集いは終わりました。

ロビーでは、1円募金活動の和を広げるために、牛乳パックに千代紙を貼った手作りの貯金箱を配布していました。参加者は喜んで持ち帰っていました。

赤ちゃんポスト
手作りの募金箱

「赤ちゃんポスト」のニュースが出た後も、ヘソの緒がついか赤ちゃんが公園のゴミ箱に捨てられていたり、幼児虐待のニュースが流れました。妊娠や、子育てについて、だれにも相談できず、一人で悩んでいる女性たちが大勢いることでしょう。生まれてくる子を捨てたり、命を断つという心の深みに与える傷は、一生消えることがありません。だれかの助けを借りることができれば、その子は与えられた命を保つことができるでしょう。「赤ちゃんポスト」だけでなく、相談できる場所があることを知らせ、神からさずかった新しい命を、わたしたちに与えられた宝物として、みなで大切にしていくことができる社会になればと思います。

円ブリオ基金センターホームページ
     http://homepage2.nifty.com/embryo/ 

慈恵病院ホームページ
      http://www010.upp.so-net.ne.jp/jikei/ 

聖マリア学院
      http://www.st-mary.ac.jp/ 


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書籍タイトル:『手間ひまかける気を入れる』
著者:遠藤順子、他
定価:1,470円(税込)
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円ブリオ基金センターのの理事長である遠藤順子さんはじめ、理事の田口朝子さんらが書いています。田口さんは、「赤ちゃんポスト」についてドイツを回ったときのことを書いています。ぜひ、お読みください。
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