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シスター三木の創作童話

青いびんのひみつ

波打ちぎわに流れ着いたびん

 海の近くに住んでいるミカちゃんは、小さいときから波の音を聞きながら大きくなりました。学校からかえるとミカちゃんは、小犬のチョコをつれて、浜辺でかけっこします。波が足のすぐ近くまでよせつけるのを待って、靴をぬらさないように、とびのくのです。なわとびと同じくらいたのしい遊びでした。

 ある日のこと、ミカちゃんは、波打ちぎわに、青いびんが、流れついているのを見つけました。ミカちゃんは、ずーっと前に読んだ本の中に、こんな青いびんの話があったのを思い出しました。
 「そうだわ。びんの中には、てがみが入っていたのよ」
 ミカちゃんは、お話しを思い出そうとしてそういったのですが、ほんとうに、その青いびんの中に紙きれが入っていたのです。
 「ほら、やっぱり、すてきだわ。これわたしだけのひみつよ。チョコ、だれにもいわないでね。やくそくよ。ゆびきりげんまん」

 小犬のチョコは、わかったのでしょうか。尻尾をふっています。ミカちゃんは、じぶんのへやにもどると、やっと、やっとのことで、青いびんのふたをあけました。びんの中の紙きれは、どうしたわけか、とても簡単にとり出せました。

波打ちぎわを走るミカちゃんとチョコ

 “このびんを拾ったしあわせな方に告ぐ。このてがみを読んだ人は、一回だけ、ほんとうに一回だけ、どんなねがいでもきき入れられます。心の中で、ねがいごとをいって、次のことばをとなえなさい。『のぞむ、のぞむ、ひとつののぞみ』”
 「わあーい。すごーい。まほうのてがみってほんとうにあったのね」

 ミカちゃんは、たいせつなたったひとつのねがいごとって、なににしようかしらって、考えはじめました。
 「そう、ミカは、ピアノがほしい。ピカピカ光った大きいの。うーんと、そうね。こっそり宿題や試験の答えを教えてくれる小人。そうしたら、安心して遊べるんだけどなあ」

 「ミカちゃん。宿題してるの」
 たのしいミカちゃんの夢を破ってひびいてきたのは、お勉強熱心のママの声。
 「うーん。いまからするところでえーす」
 ミカちゃんは、できるだけ大きな声で返事をしました。ママがへやに入ってきたらたいへんです。ミカちゃんは、てがみの入った青いびんを、洋服だんすの奥の方にかくしました。
 「はやくなさいよ。でなきゃ、テレビは見たいし、宿題はしてないしって、また、泣きたくなるでしょう。だから・・・」
 「はあーい。わかってまあーす」

 ミカちゃんは、机の上に学習ノートを広げました。けれど、いつのまにか書いていたのは、ピアノ、パンダ、宿題をしてくれる小人さん……。みんなミカちゃんが、ほしいものばかり。
 「ああ、たいへん。たくさんほしいものがあるのに、たったひとつだけえらぶなんて、むつかしいなあ。ゆっくりと、よく考えよう」

 ミカちゃんは、学校へ行っても、洋服だんすの中の青いびんのことが、気になって落ちつけません。そわそわ、もそもそしています。

 「谷本ミカさん。22頁の3行目から読んでごらんなさい」
 ミカちゃんは、先生の声にびっくりして立ちあがりました。
 「谷本さん。ぼんやりしてたようね」
 「はい。先生すみませんでした。読みます」
 ミカちゃんは、読みはじめました。
 「はい。よく読めました。つぎを、西本さん。西本かおるさん。あら、あなたも、ぼんやりしてたのね。きょうは、どうかしてるわね。ふたりとも」
 ミカちゃんのとなりの席の西本さんは、先生にそういわれると、しくしく泣きはじめました。先生は、なにか思い出されたようです。
 「そう、悲しいのね。お母さんのことね。あとで先生に話してね。それでは、つぎを、坂本くん読んでください」

 授業はつづけられます。そのあいだじゅう西本さんは、泣いていました。西本さんのお母さんは、病気で、長いこと入院したっきりだったのです。ミカちゃんは、そっと聞いてみました。
 「お母さん、まだよくならないの」
 西本さんは、こっくりとうなずきました。

教室の窓から白い雲を見るミカちゃん

 〜 かわいそうな西本さん、わたしが、まほう使いだったらなあ 〜
 そして、ミカちゃんは、思い出しました。あの青いびんの中のてがみを。
 「そうだわ。西本さんのお母さんを元気にしてあげてくださいって、おねがいしよう」

 教室の窓から見える白い雲が、ピアノの形に見えました。パンダ雲や、小人雲が、風にのって流れていきました。でも、ミカちゃんの心は、軽くはずんでいました。ピアノもパンダも小人も、そんなものなくたってへいきって、そんな気持ちになっていたのです。


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