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 ショコラ

2001年5月

CHOCOLAT

ショコラ

  • 監督:ラッセ・ハルストレム
  • 原作:ジョアン・ハリス『ショコラ』( 角川書店BOOK PLUS)
  • 音楽:レイチェル・ポートマン
  • 出演:ジュリエット・ビノシュ、ジュディ・デンチ、
       アルフレッド・モリーナ

2000年 アメリカ映画 2時間1分

  • 2001年第73回アカデミー賞5部門ノミネート
          (作品賞、初演女優賞、助演女優賞、脚色賞、音楽賞)
  • 2001年第58回ゴールデン・グローブ賞4部門ノミネート
          (作品賞、主演女優賞、助演女優賞、音楽賞)
  • 2001年第53回イギリス・アカデミー賞7部門ノミネート
          (主演女優賞、助演女優賞2人、脚色賞、撮影賞、美術賞、
           衣装賞、メーキャップ/ヘア・デザイン賞)
  • 2001年第51回ベルリン国際映画祭正式出品

この映画のことを聞いたのは、試写会を見に行った晴佐久神父(東京教区司祭)からでした。「とにかくいいよ。本当にいいよ。見終わったらチョコレートが食べたくなっちゃうんだから」。ン? チョコレートが食べたくなる?

それでいい映画となるの? ハッピーな映画らしいけれど、何がどういいの? しかし、晴佐久神父は、「見終わったらチョコレートが食べたくなる」とそればかり。彼は、映画通。カトリック新聞に映画評を書き、「天国映画村」を主宰している方ですから、彼が言うのならいい映画なのでしょう。ということで行ってきました。ゴールデンウィークのせいか、開演1時間前に着いたのに、すでに100人近い人の列ができていました。若い世代が多いのですが、この映画の何が、これほどひきつけているのでしょうか?

冒頭からビックリ! これは、キリスト教世界のお話だったのです。この意味で、カトリック信徒にはお薦め映画です。まさに、信徒の陥りやすい信仰生活のお話なのです。でも、信仰とは別の意味でも、意味深い内容です。「いかに生きるか」を考えさせられる映画です。もちろん、いろいろな姿のチョコレートが登場して、見ている時からチョコレートを食べたくなりました。神父さん、ホント、いい映画でした。

物語

時は1950年代、そう、第2バチカン公会議が始まる直前の時代です。「教会にこそ救いがあり、洗礼を受けていない人は救われない」という考えが支配している時代でした。場所はフランスの小さな、小さな村。人々は教会を中心に生活していました。その村は、世襲で村長をつとめているレノ伯爵(アルフレッド・モリーナ)をリーダーとして、伝統と規律を守り、教会の掟を厳守した生活を送っていました。赴任してきたばかりの若い司祭もレノ伯爵の下にあり、ミサ中の説教も、レノ伯爵の目にかなうことが必要でした。規則に厳しいレノ伯爵、実は奥さんが家を出ていったのですが、村人の手前真実を語れずごまかしていたのでした。

イースターを迎えるまでの四旬節(レント)を、人々は断食をして過ごしていました。ある北風の強い日、赤いコートを着たヴィアンヌ(ジュリエット・ビノシュ)と娘アヌーク(ヴィクトワール・ティヴィソル)がこの村にやってきました。ヴィアンヌはチョコレートの効能を人々に知らせるために、世界中を転々と移り暮らしていました。

チョコレートの店を開店する準備に一生懸命のヴィアンヌ。しかし、時期が悪かった。今は、四旬節で、甘いお菓子を食べてはいけないのです。一週間後、チョコレートのお店が開店しました。村人はウィンドウに並べられたいろいろなチョコレートを見て、お店の中に入ってみたいのですが、今は断食の期間です。レノ伯爵の監視があり、周囲の目があり、なかなかドアを入ることができません。レノ伯爵は、日曜日に教会に行かないヴィアンヌが気に入らず、何かとつらくあたります。

さて、ヴィアンヌは、客の好みにあったチョコレートを勧める能力を持っていました。ヴィアンヌから買ったチョコレートを食べると、効果てきめん。こわごわやってきた婦人に持たせたおまけのチョコレートを夫が食べると、倦怠期の夫婦に再び愛が燃えはじめました。老未亡人に恋する男性は、チョコレートをプレゼントすることによって恋を告白できました。店の大家である老婆アルマンド(ジュディ・デンチ)は、厳格な娘に嫌われていて、孫に会わせてもらえませんでしたが、ヴィアンヌの作った唐辛子入りのホット・チョコレートを飲むうちに、頑固だった心を次第に開いていき、ヴィアンヌの店で孫リュックと会えるようになりました。夫の暴力に苦しみ家出したジョゼフィーヌは、ヴィアンヌに助けられ、いっしょにチョコレートを作りはじめるうちに、夫の暴力から解放され、チョコレートをとおして人々を幸せにすることに喜びを感じ、次第におだやかな顔になっていきました。ヴィアンヌの作ったチョコレートによって、次々と不思議なことが起こっていきます。しかし、断食期間であるにもかかわらずチョコレートを食べる人々に危機を感じたレノ伯爵は、ヴィアンヌの店に近づかないよう村人に警告しました。

そんなある日、河にジプシーの一団の船がやってきました。ヴィアンヌは、自分と同じように旅をしている彼らに好意的であり、リーダーのルーに心をひかれます。しかし、村人は彼らを差別し、拒否しました。村議会はよそ者を追い出し、彼らといっしょにヴィアンヌも追い出そうとします。

心を痛めてたヴィアンヌにアルマンドは、自分の誕生パーティーを開き、その席に村人といっしょに、ルーも招くことを勧めます。母親の目を盗んでリュックもやってきました。彼らはヴィアンヌのチョコレート料理に舌鼓をうち、楽しい時を過ごしました。孫リュックから似顔絵をプレゼントされたアルマンドは最高に幸せで、その夜、静かに一人で息を引き取りました。

アルマンドの葬儀から抜け出したヴィアンヌは、北風の吹くなか、次の村へ行こうと決心し、荷物をまとめはじめます。しかし、今度は娘アヌークの抵抗にあいました。アヌークは、友達ができない旅の生活をとてもつらく感じていたのです。ところが、その晩、ノア伯爵がヴィアンヌの店に忍び込みました。

 

最後は、あの厳格なノア伯爵が回心するのですが、それもチョコレートの魔力でしょうか。

チョコレートの原料は、植物学上は「神の食べ物」を意味する「テオブロマ・カカオ」と言われる12~18mの高さの木に、さやの状態でなっているそうです。マヤ族にとってカカオ豆は天からの贈り物として大切にされ、不思議な力があるとして、宗教儀式などで使用されていました。熱、咳(せき)、妊婦のつわり、歯の治療などにココアを使っていました。

村人だけでなく、ノア伯爵の心まで変えたのは、チョコレートの魔力だけでなく、ヴィアンヌの美しさ、どんな人をも受け入れる、心の大きさにもあると思います。よそ者の母子は、どの村へ行っても、きっと差別を受けていたでしょう。新しい村にとけ込もうと努力するのですが、結局疲れ果てまた別の村へと移動する。北風が吹くと、移動を感じるヴィアンヌの姿を見ながら、イエスと同じだと思いました。人は、同じメンバーと同じような毎日を送っていると、次第に形骸化していき、平和を乱す異分子を拒否しようとします。教会の規則だけに縛られ、その本質である愛を忘れていた村の人々の心を、再び愛に燃え立たせたヴィアンヌですが、いつまでもそこに留まることはせず、北風が吹くと、また次の村へと旅をしていきます。イエスが、「福音を伝えるために、他の町や村へ行こう」と言っていた姿と重なります。

規則や人の目に縛られ、恐れと不安を感じていると、人は自分がもっている本来の力を出せません。安心感があると、自分を自由に表現できます。自分は自分でいいんだ……と認めてもらえる環境。ヴィアンヌは、日本の若者たちが求めている大きな愛を持っているのかもしれません。ヴィアンヌの透き通った笑顔、これがこの映画の魅力でしょうか?

ヴィアンヌを演じるジュリエット・ビノシュは、ついこちらも微笑んでしまうような魅力的な女優さんです。アルマンド役は、1998年、「恋におちたシェイクスピア」でアカデミー賞助演女優賞を受賞したジュディ・デンチ、また、ヴィアンヌの娘のアヌークは、映画「ポネット」(1996年)で、母親を亡くした深い哀しみを3歳で演じて、ヴェネチア映画祭史上最年少で主演女優賞に輝いたヴィクトワール・ティヴィソルです。

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