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こんなとこ行った!

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東京国際ブックフェア 基調講演

~『本』の流通は脳に始まり脳に終わる~ 講師:茂木健一郎氏

2008/07/23

7月10日(木)、東京国際ブックフェアの1日目、脳学者の茂木健一郎氏の基調講演が行われました。今やテレビに著書に、新聞にと大活躍の学者の茂木さんは、インターネットに書籍内容を載せることを脅威に感じている出版業界に、本の役割はますます必要になってくると、檄(げき)を飛ばしてくださいました。

 
インターネット時代に、本はますます重要になる!

インターネットが登場し、多くの本が王道を失いつつあるのではないかとの心配が、出版界にある。多くの情報を無料で届けてくれるデジタル情報は、一度入手するとコピーも簡単にできる。しかし、ある情報が無料でインターネット上に載っていることは、本の出版を妨げるものではない。本は情報そのものを売っているのではない。「本を読む」という体験は、本でないとできない。紙で印刷されているものを読むと、そこには没入感がある。デジタル情報は他の役目がある。デジタル情報と本の役割は別のものである。インターネットの登場により、検索性が増している中で、本は、インターネット時代に、ますます重要感を増している。

本もインターネットも、情報の面から見ると同じだと思いがちだが、脳は違う。脳が本気になる度合いが違う。紙は脳を白熱させる。

 
古典を目ざせ!

インターネットは常に動いていて、リンク先が変わり流動している。それに対して本はいかりを降ろしている。全アーカイブをインターネット上に載せることを考えないとフワフワしていて流れていく。本はますます重要度を増していくと思う。本というメディアの存在理由は、古典を持つこと。新刊本の何冊かは古典になってほしい。古典とは、いかりを降ろすところ、固定点である。

 
検索を活用しよう! ブックサーチ

Googleが好きでよく利用している。Googleブックサーチが便利である。本の内容が検索できる。これに対し出版界は「本が検索され、その1ページが丸ごと取れるとなると、ページをつなげて1冊分の本にされるのではないか」という懸念を持っている。しかし、そんなことはない。

よい本を、いかに人々に出会わせるか。このことについて出版界は原始的である。ここでは、情報の整理術は意味がない。KJ法、カード式……、いろいろな情報整理術があるが、今は、インターネットという強烈な情報検索機能が出てしまった。ネットというインフラがある。どのようにして、よい本を求めている読者に本を届けるかということに、もっと努力していいと思う。一部の情報をネット上に載せる。全文は、本または雑誌を読んでください。という提示の仕方である。

売れ方が長い尾を引いている本を、“ロングテール現象”と読んでいる。ロングテールに手を伸ばすために、本の検索ということが大切だ。

 
本とインターネットは相性がいい

臨死体験の本を頼まれた。『生きて死ぬ私』(ちくま文庫)である。しかし書いていくうちに、人生体験のエッセイになった。編集者は困った顔をした。「茂木さんが五木さんだったらよかったのに……」と言われた。人生エッセイといえば五木さんとなっていた。本は内容だけでは売れないということを知った。当時、自分には脳学者のタイトルしか付けられていなかった。臨死体験は、立花隆さんだ。

今は文明転換期だと思う。インターネットの持っているポテンシャルを使い切っていない。本とインターネットは相性がいい。書店に行くのは大好きである。本が並んでいるのを見るのは、壮観である。しかし、インターネットで本を買うことも常にしている。

脳には、楽観通路というのがあり、楽観的に見ていくと、それへの力が高まっていく。明るいと思うことにより、脳は活力を得る。楽観回路がうまく働かないと、うつ状態になる。出版業界は大丈夫だろうか?

本は人間にとって、たくさんのことを教えてくれる。人間の脳は、本を読んだ数だけ高くなっていく。高くなって見渡せるようになる。

 

「本が大好き!」な方であるということが、しっかりと伝わってきました。テレビで活躍している茂木さんは、早口の印象があり、頭の回転が速い方……と思っていましたが、ただ速いというのではなく、「脳がしなやかに回転している」という感じでした。インターネットが生活を大きく変えていく時代の中で、「いかに本を読者に届けるか」を、今までのやり方ではなく、インターネットの機能を十分に活用する道を考えたいと思いました。

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