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 サイダーハウス・ルール

2000年6月

The Cider House Rules

サイダーハウス・ルール

  • 監督:ラッセ・ハルストレム
  • 音楽:レイチェル・ポートマン
  • 出演:トビー・マグワイア、マイケル・ケイン、
       エリカ・バドゥ、シャーリーズ・セロン
  • 配給:アスミックエース

1999年 アメリカ映画 126分

  • 本年度アカデミー賞主要2部門(助演男優賞・脚本賞)受賞

物語

1930~40年代、メイン州ニューイングランド。ホーマー・ウェルズ(トビー・マグワイア)は人里離れたセント・クラウズの孤児院で生まれます。ここから、いつの日か新しい家族のもとへと巣立っていくはずでした。

ホーマーにも養父母が見つかり引き取られて行きました。ところが養父母の希望に添うことができず、セント・クラウズに戻されてしまいます。ラーチ院長(マイケル・ケイン)は、そんなホーマーに特別のものを感じるようになります。「人の役に立つ存在になれ」と教えを説き、父親のような愛情を注いで育てるのでした。

医者でもあるラーチ院長は、お産と当時禁止されていた堕胎を仕事としていました。堕胎は、産んでも育てられない子どもを宿し、途方に暮れる女性を救うために行っていたのです。彼は父として、ホーマーにも自分と同じ道を歩んで欲しいと望み、ホーマーもその期待に応えるかのように、医術を学んでいきます。

青年となったホーマーは、ラーチ院長や看護婦たちとともに子どもたちの面倒を見、お産も立派にこなすようになります。しかしどんなにラーチ院長が言い聞かせても、堕胎の手術だけは決してしようとはしませんでした。もしかしたら、自分もこの世に生まれてこなかったかもしれないのだからと、大人たちの身勝手な行為の犠牲になって殺された赤ん坊と自分を重ね合わせるのでした。

                 ☆    ★    ☆

ある日、堕胎の手術のために、キャンディ(シャーリーズ・セロン)と恋人の軍人ウォリー・ワージントンが現れます。ふたりとの出会いをきっかけとして、ホーマーは孤児院の外の世界に強くひかれていきます。引き留める院長の説得にも、ホーマーの決心は揺るぎません。「外の世界に行って、別の道で役に立ちたい」と孤児院を出ていくのでした。彼にとって外の世界は新鮮で驚きの連続でした。はじめて見る海、はじめて体験するロブスター漁などなど。

ホーマーは、ウォリーの家族が経営しているリンゴ園で働きはじめます。収穫とともに移動する黒人の労働者たちと、“サイダー・ハウス”と呼ばれる小屋で寝起きをともにし、多くのことを学んでいきます。収穫作業のボスであるミスター・ローズ(デルロイ・リンド)は、“サイダー・ハウス”の壁に貼られている注意書きを見ながら言います。「これを書いたのはここに住んだことのない奴だ。俺たちのルールは俺たちで決めるんだ。」と。

リンゴ園での生活に慣れてきた頃、ウォリーが再び戦地に戻ることになりました。残されたキャンディは寂しさを紛らわすために、ホーマーをいろいろなところに連れて行きます。次第にホーマーとキャンディは、友情以上の感情を抱くようになっていくのでした。収穫も終わり、ミスター・ローズたちは新しい収穫地へと旅立って行きました。しかしホーマーはそのままリンゴ園に残ります。

                 ☆    ★    ☆

やがて一年が過ぎ、ミスター・ローズたちが戻ってきました。ところが以前と比べて、様子がおかしいのです。ミスター・ローズの娘、ローズ・ローズ(エリカ・バドゥ)が望まない妊娠をしていました。そんなとき、ウォリーが戦地から帰ってくるとの連絡が入ります。  

人生の岐路に立つホーマー。リンゴ園の仕事、キャンディとの関係、孤児院のこと、自分が学んだ医術。自分は一体何者なのか。何をしなければならないのか。さまざまな思いがホーマーの頭を駆けめぐります。そのときホーマー は、父であるラーチ院長の言葉「人の役に立つ存在になれ」を思い出し、大きな決断に踏み切るのです……。

 

家族、地域、職場などをはじめとして、人間の社会生活は人と人との関係の上に成りたっています。人と人同士が、より円滑に生活や関係を営むためには、法律、慣習などの決まり事も必要になってきました。本来、人が人らしく生きられるように、人を活かすために作られたはずのルールが、いつの間にか、人を活かすのではなく、縛るものになっているとしたら。

ついつい私たちは、既存の価値観や倫理観に縛られて、「こうあるべき」と頭のレベルで決めつけていることってありますよね。枠組みに縛られていることにさえ気づかないでいるかもしれません。身近にいる人の苦しみや悲しみなどを共有するために、その人に自分を無防備にして近づくよりも、人間が作った法を振りかざして判断し、痛んでいる人をさらに痛めつけるってことありますよね。

                 ☆    ★    ☆

ホーマーは、家族であるラーチ院長をはじめ孤児院のみんなと別れて暮らすことで、さらに多くの人たちと出会います。そして人間がいかに複雑であるかにも目覚めていきます。表面に写る、-たとえば態度や言葉だけで-、いいとか悪いとか単純にはかれないことを目の当たりにします。そこに至るまでの生い立ちや環境など複雑に絡み合った要因によって動かされる心の奥にある言葉にならない思い……。

 

この映画は、人が人として生きていくために、一番大切なのが何であるか、物事の本質とは何か、見かけとは対象的な真実を主人公のホーマーの優しく静かな内省的な存在を通して語りかけています。

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