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 いのちの海

2001年2月

いのちの海

  • 監督:福原進
  • 出演:上良早紀、中村嘉葎雄

2001年 日本映画

  • 第24回モントリオール世界映画祭 正式出品作品
  • 優秀映画鑑賞会推薦

21世紀は“いのち”の世紀ともいわれているようですが、今回はまさしくそれにふさわしい映画をご紹介しましょう。

原作は、山本周五郎賞受賞作の帚木蓬生著の「閉鎖病棟」です。

物語

舞台は、佐賀県。有明海に面した、精神病院「かささぎ病院」です。ここには、いろんな過去を背負った人たちが入院してます。

若いころから幻聴で20年も入院している、ブラームス通のチュウさん。刑は執行されたが、絶命しなかった元死刑囚の秀丸さん。言葉は自由に操れませんが、写真の才能を持つ昭八さん。手旗信号で、自分の心を表現し続けるフーさん。病気からお母さんを殺してしまったクロさん。みんな優しく、静かに過ごしています。

そんな、かささぎ病院に、麻薬中毒患者のやくざ・重宗が送られてきます。彼は、殺人罪で刑務所に送られるべきところを、精神病院に送られてきたのです。他の患者に暴力をふるい、けがまでさせますが、警察は病院内の問題としてとりあつかってくれません。

ヒロインの島崎由紀は、家庭の問題で深く傷ついて登校拒否に陥ってました。そして、両親は、心を閉ざしてしまった由紀を精神病院に通院させます。彼女は、優しい入院患者たちとの交流によって安らぎをえて、しだいに明るくなっていきます。

いのちの海いのちの海

由紀は少しずつ心を開き、自分の過去を話せるまでになっていきました。

しかしそんなとき、麻薬中毒患者の重宗が由紀をおそいます。たまたまそれを目撃した昭八は、カメラのシャッターを押すことによってしか、戦うことができません。

再び深く傷ついた由紀を思いやる患者たちは、それぞれの思いで精一杯の行動に出ます。それは世間の常識をはるかに超えたものでした。

 

社会の中で、取り残されたように見られる人たち。そんな人たちがこの映画の主人公です。でも、私たちが、「取り残された」と思っている彼らの中に、忘れられようとしている人間の真実の触れあいと、あたたかさが見えます。

そんな彼らを、母親の死、仲間の自殺、強かんといった苦しく、重い事件が襲います。『それでもなお人は生きていかなければならない。』この映画の悲しく、しかし強いテーマを感じさせてくれます。

命がけで私の代わりに重宗を刺したのです。秀丸さんのためにも、生きなければならない……そう思いました」と。

周囲の人々の偏見の中でも、患者たちは、明るく、ともに助け合いながら生きています。しかし、自分自身も取り残されたと感じ、病院から飛び立つことを恐れている彼らに、婦長はやさしく、「病院は終の棲家(すみか)ではなく、羽をやすめる場である」と語ります。そのとき悲しい顔をしたかに見えたチュウさん。けれど、ラスト近くに証人席でチュウさんは、「秀丸さん、退院したよ!」と語りかけます。「生きよう」とする、力強い叫びのようにさえ聞こえる言葉でした。

この映画は、生きることの、悲しさ、苦しさを描きながらも、生きることのすばらしさ、大切さと、“いのち”の重さを教えてくれました。

そして、映画の冒頭にムツゴロウが、愛きょうのある顔で、干潟を泳ぎ、はね回ります。干潟の埋め立てで、このムツゴロウも危機にさらされている今、環境と、心の両面から“いのち”を考えていきたいと思わせてくれる映画でした。

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