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 かあちゃん

2001年11月

KAH-CHAN

かあちゃん

  • 監督:市川 崑
  • 原作:山本周五郎
  • 脚本:和田夏十・竹山 洋
  • 音楽:宇崎竜童
  • 出演:岸 惠子、原田龍二、うじきつよし、勝野雅奈恵

2001年 日本映画 96分


山本周五郎は、日本女性のすばらしさ、日本の母の真の強さを、いろいろな作品をとおして描いていますが、この映画も、まさに「母」のすばらしさ、ふところの深さを描いています。

「ホントに、いい人だね~~~」と感じるとき、その人の根底には、「人を信じる」ということがあるんだな……とか、「いい人!」には、生きることに対する信念があり、また、「いい人」になるためには、お互いに作り上げていくということもあるんだな……と思ってしまいました。

「いい人であろう」とすると、今の時代はいじめを受けたり、足をひっぱられたりして、生きにくいですよね。また、そういう人のそばにいると、肩が凝ったりします。この映画「かあちゃん」では、お互いが、それぞれの「いいひと」を、うれしく受け入れ合っているのです。

よいことをするとき、イエスはこう言っています。「施しをするときは、右の手のすることを左の手に知らせてはならない。あなたの施しを人目につかせないためである。」(マタイ 6.3)つまり、よい行いは、誰にも知られることのないように、隠すように行いなさいということです。「かあちゃん」とその子どもたちは、まさにこのイエスの精神をさりげなく生きています。さらに、それに対する報いを一切受けようとしないばかりか、報いがないようにしています。かあちゃんの生き方を、子どもたちはしっかり受け継いでいます。困っている人に対して、なんとか力になってあげたい……その思いだけなのでしょう。

市川監督の作品は、独特の美学があり映像が美しいですよね。そして、カメラ位置も独特です。カラートーンを落とし、まるで舞台劇のようにシンプルなセット。場面も、居酒屋、重なり合う長屋の屋根から見る路地、「かあちゃん」一家の部屋、河原と数えるだけ。その映画の作り方全体に 今の時代のような複雑はありません。

脚本は、亡くなった市川監督の奥様、和田夏十さん。監督は、奥様との共作をすべての女性にささげています。

物語

不景気、高い失業率、今のように、いえ、今よりもっと経済的に苦しい時代のことです。

天保末期の江戸。老中・水野の改革もむなしく、江戸の庶民の生活は貧窮を極めていました。 勇吉(原田龍二)が盗みに入った最初の家は、家具もない空き家同然の埃だらけの長屋の一室。収穫がなにもなく、肩を落として入った居酒屋で、常連たちの話から、同じ長屋の「おかつ」(岸惠子)一家が、かなりのお金を貯め込んでいると知ります。

その晩、勇吉はおかつの家に泥棒に入ります。泥棒が入ってきたことに気づいたおかつは、お腹の空いている勇吉に残り物のうどんをあたため、勇吉を諭し語りかけます。「どうしてもほしいと云うんならあげてもいいが、その前にこれがどんな金かってことを話すから聞いておくれ」

お金は、おかつの長男・市太(うじきつよし)の大工仲間である源さんを助けるためのものでした。3年前、源さんは生活に困り、仕事場の金を盗み牢に入れられましたが、明日、出所してきます。こんな世の中ゆえに、罪を犯さざるを得なかった源さんの将来を案じ、おかつと5人の兄弟は、一家をあげて、源さんが牢から出てきた時のために、新しい仕事の元手となるお金を貯めていたのです。

翌朝、おかつは子どもたちに、勇吉を千葉に住む遠い親戚の子として紹介し、くびになって職を失った彼をこの家においてやりたいがどうかと、みなに問いかけます。子どもたちは、かあちゃんが言うんだからと、勇吉を家に迎えいれます。

その夜、牢から出てきた源さんと奥さん、赤ちゃんを迎え、サバを焼いてお祝いが行われました。勇吉も、家族同様に扱われ席につきます。彼らの心のあたたかさを味わった勇吉は、この家に居るにはふさわしくないと長屋から出ていこうとしますが、長女・おさん(勝野雅奈恵)に引き止められます。うそをついてまで勇吉を守ろうとするおかつ。 子どもたちは、おかつのうそを見抜きながらも、あたたかく受け入れています。

やがて勇吉は市太の紹介で職に就くことができました。ある朝、勇吉は、お弁当をとおして、おかつとおさんの優しさを知ります。「俺ア、生みの親にもこんなにされたことがなかった。」勇吉は感謝の思いを口にするのですが、それを聞いたおかつは声を震わせて怒鳴ります。「子として親を悪く云うような人間は大嫌いだよ!」

おかつに叱られながら、勇吉の心の中には今まで味わったことのない熱いものが込み上げてきます。仏壇の前で祈るおかつに、勇吉は心の中でそっとつぶやき長屋の戸を閉めるのでした。「かあちゃん……。」

 

映画を見終わった後、私も「いい人になりたい」と思いました。そして、「いい人になることは、そんなに難しいことではないんだ……」とも思ってしまう映画でした。心がほのぼのとして、ニヤ~~~っとなってしまいます。

お互いがお互いを信じられたら……、こんな時代だからこそ……、キラリと光る映画です。

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