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 ノー・マンズ・ランド

2002年6月

NO MAN'S LAND

ノー・マンズ・ランド

  • 監督・脚本・音楽:ダニス・タノヴィッチ
  • 出演:ブランコ・ジュリッチ、レネ・ビトラヤツ

2001年 フランス=イタリア=ベルギー=イギリス=スロヴェニア合作 138分

  • 2001年カンヌ国際映画祭脚本賞
  • 2002年ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞
  • 2002年アカデミー賞外国映画賞、その他多数受賞

…for Pease 平和こそすべて……

   『ノー・マンズ・ランド』が意図するのは、責任追及ではない。
   悪いことをしたのが誰なのかを指摘する映画じゃないんだ。ぼく
   が言いたいのは、あらゆる戦争に対して、異議を唱えるというこ
   とだ。あらゆる暴力に対する僕の意志表示なんだよ。
                     ダニス・タノヴィッチ

2001年カンヌ映画祭脚本賞、今年度アカデミー賞外国語映画賞をはじめ、たくさんの映画賞を受賞した、話題の映画です。時は1993年、ボスニア紛争下、場所は、ボスニアとセルビアの中間地帯“ノー・マンズ・ランド”にある塹壕(ざんごう)。塹壕の中にいる負傷した両兵士を助けようとするセルビア兵、ボスニア兵、国連防護軍、マスコミの姿を、風刺をこめて描いた作品です。32歳の監督は、実際にボスニア戦争の最前線でカメラを回し、ドキュメンタリーを世界に発信しました。登場人物と同じように、キャストもスタッフも、クロアチア、ボスニア、セルビア、英国、ベルギーなど各国からの人々です。

ポスターの絵から勝手に想像して、敵対する両軍の兵士の間に友情が生まれ、ハッピーエンドになるのかな……と想像していたのですが、全く違いました。当たり前に起きる、人間のごく普通の感情が、戦場で起きるとどうなるか……。それも、現代の紛争にかならず顔を出す国連軍とマスコミの前で……。しかし、どうしようもない結末で、やりきれなさだけが残ります。

いったい人間は、何のために戦争を始めるのでしょうか。戦争や紛争は、民族、宗教、国家単位の戦いなのですが、それは、ごく普通の人の、一人対一人の単位の出会いの中で起きる感情と、その感情を処理できずに行動してしまう怒りの連鎖が基本になっているのだ……とつくづく思いました。人間というものは、争いをなくすことはできないのでしょうか。

物語

ボスニア軍の市民兵たちが、夜の深い霧の中で道を迷い、霧が晴れるのを待つために夜をあかします。まぶしい朝陽で目がさると、霧はきれいに晴れていました。周囲を見回し、近くでたなびく旗を見つけました。「セルビア軍だ!」とわかったときはすでにとき遅く、セルビア軍から銃弾が飛んできました。逃げまどう仲間が、次々と倒れていく中で、チキ(ブランコ・ジュリッチ)は生き延び、やっとの思いで塹壕にたどり着きました。この塹壕は、ボスニアとセルビアの中間地帯“ノー・マンズ・ランド”に位置していました。

セルビア軍は、生存者を確かめるために、二人の兵士を塹壕に送ります。その一人ニノ(レネ・ビトラヤツ)は、今まで銃を持ったことがありません。老兵士に教わりながら、這って塹壕に進みます。チキが塹壕に潜んでいることを知らない二人は、セルビア兵ツェラの死体の下にジャンプ型の地雷を仕掛けます。この地雷は、踏んだとき爆発するのではなく、踏んで足を離したときに、1m上で爆発して周囲50mに銃弾が飛び散って炸裂する恐ろしいタイプでした。仲間を見つけに来たセルビア兵が、死体を動かしたとき、体重が外れて地雷が爆発してボスニア兵をやっつけるためです。

二人が引き上げようとしたとき、ニノは誰かいるのではと気づきます。チキは飛び出して二人を撃ち、老兵士は死亡してニノは負傷します。

チキの指図で、ニノは塹壕の外に出て白旗に見立てたシャツを振ります。裸で踊っているのがどちらの兵なのか見定めることができないセルビア軍は、塹壕に向かって砲撃を始めます。その時、死亡していたと思ったツェラの意識が戻ります。動こうとするツェラを、チキは慌てて止めます。体を動かしたら地雷が爆発し、3人とも死んでしまうからです。

暑い太陽が、じりじりと容赦なくツェラを照らします。「戦争を仕掛けたのはどっちか……」と言い争うチキとニノ。しかし、二人が同じ女性を知っていたことがわかり、二人は次第に心を通わせまていきます。ツェラがニノを撃ち殺せと言ったときも、チキはニノを撃てませんでした。

地雷を抱えて動けないという状況から脱出するために、今度はチキとニノが服を脱いで白いシャツを振ります。これの姿を双眼鏡で見たセルビア、ボスニアの両軍から、国連防護軍にSOSが入ります。

上官から指示を待ってしか動くことができない国連防護軍では、マルシャン軍曹(ジョルジュ・シアティディス)が上司の命令を無視して塹壕に向かいます。ボスニア軍の検問所に来ると、通信を受信して事態を知ったテレビレポーターのジェーン(カトリン・カートリッジ)が待ちかまえていました。

塹壕に到着したマルシャン軍曹は、地雷撤去班を要請しようとしますが、上官は彼に撤退を命じます。この厳しい状況から、なんとか3人を助けようとするマルシャン軍曹。彼はジェーンの力を借り、マスコミを動かして上官を動かそうとします。

塹壕での状況がニュースで中継されたことによって、他のマスコミも駆けつけてきました。心を通わせていたはずのチキとニノですが、ニノが二人を置いてマルシャン軍曹と一緒に塹壕を出ようとしたことから、二人は互いに恨みを抱くようになってしまいます。

ドイツ軍の地雷撤去班が到着し、撤去作業が始まりました。全員、塹壕から離れます。地雷撤去班は、背中の下に埋まっているような状況では、地雷撤去は不可能だとマルシャン軍曹に告げます。

国連防護軍は、この状況をどう治めるのでしょうか……。そのとき、マスコミのカメラがまわっている前で、チキが思いがけない行動に出ます。

 

マスコミの目と体裁ばかりを気にして本来の行動をとらない国連防護軍、最後のつっこみをあきらめ事件を検証しないマスコミ、緊張と笑いを背中合わせにしながら、タノヴィッチ監督は戦争の愚かさを描いています。限定された狭い空間と、少ない登場人物であるにもかかわらず、深いメッセージが伝わってくる「ノー・マンズ・ランド」を、ぜひ、ご覧ください。

人間の中に同居するあたたかさと、冷たさ、無力さを、狭い場、少ない登場人物で、見事に描いた素晴らしい作品です。ぜひ、ご覧ください。

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