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 アフガン・アルファベット

2002年8月

AFGHAN ALPHABET

アフガン・アルファベット

  • 監督・脚本・撮影:モフセン・マフマルバフ

2002年 イラン映画 46分


今年1月、映画「カンダハール」が上映された際、監督のモフセン・マフマルバフ氏が来日したことは、記憶に新しいと思います。そのとき監督は、「アフガニスタンの子どもたちの教育問題をテーマにした、ドキュメンタリー映画『アフガン・アルファベット』を制作中です」と語っていました。その「アフガン・アルファベット」が、いよいよ公開されます。

マフマルバフ監督の言葉

 アフガニスタンではタリバンは一つの政治政権だったのではなく、依然として一つの文化なのです。爆撃によって政治政権を壊滅させることはできても、文化を変えることはできません。ロケット弾によってブルカの中に閉じこめられた女性を解放することはできないのです。アフガニスタンの少女たちには教育が必要です。彼女は自分が何も知らないことを知りません。彼女は閉じこめられていますが、自分が貧困、無知、偏見、男性優越主義、そして迷信の囚人であることを知りません。タリバン以前でさえも、アフガニスタンでは女性の95%、男性の80%が学校に通う機会がなかったのです。この映画は、アフガニスタンの文化の問題を解くことのできる失われた鍵を探しています。

2002年1月10日、法律が変わって身分証のない子どもたちの学校登録が許可された。

 

場所は、イランにあるアフガニスタン難民キャンプ。足の不自由な男の子が、松葉杖を支えにして、女の子たちの授業を入口からのぞいています。

先生から習っている言葉は「AB(アーベ)」、「水」という意味です。先生が、粗末な黒板に書いた「AB」という文字を、何回も何回も繰り返して発音します。大きな声で「アーベ」「アーベ」。声に出して言いながら、日ごろ使っている言葉が、2つの文字でできていることを学んでいきます。

子どもたちは、勉強できることがうれしくてうれしくてたまらない様子です。先生から教わるということ、文字を教わるということ、友達と一緒に勉強するということが、こんなにもうれしいことなのか……ということが、彼らの輝いている目からわかります。きっと「学ぶ」という行為には、「未来がある」のでしょう。

広い部屋の真ん中に男の子たちが集まっています。彼らは、3つのグループに分かれています。先生がやって来ました。先生の前に並んで座っている男の子たちは、身分証のある10歳より上の子どもたちです。数メートル離れた後ろの方に、もう一つのグループが座っています。彼らは10歳以下の子どもたちで、学校に登録できないので、自由参加という形で座っています。三つ目のグループは、もっと遠く、壁のそばにいます。彼らは身分証のない子どもたちで、正規の生徒として認められないので、授業を受けることができません。見学という形です。

女の子たちが、女の先生の部屋に集まってきました。20人ほどが入ると、小さな部屋はいっぱいです。「アーベ」の練習をした後で、先生は、ブルカをぬいで顔を洗うようにと言いました。言葉と生活が結びついた、総合的な授業です。しかし、一人だけ、ブルカを深くかぶったまま抵抗している子がいます。サミラです。他の子は少しずつ、ブルカから顔を出したり、顔を洗ったりしていきますが、サミラは、絶対に目も見せようとしません。「ここは女の子だけだから、脱いでも大丈夫よ」と言っても、「アフガンの女性は家族以外には絶対に顔を見せない」と拒絶し続けます。とうとう先生は、ブルカを脱がないなら教室から外に出なさいと、彼女を追い出してしまいました。

教室の外に立っている女の子のところへ、友達がやってきました。サミラがブルカを脱ぎたくない本当の理由は、別のところにありました。教えを破ることは、亡くなった父を裏切ることになると思っていたのです。そこには、サミラの父への思いがあったのです。しかし、友達の親身な説得によって、サミラは教室に戻ります。

サミラはブルカを上げて顔を洗い、水が飛び散ります。

 

ブルカを脱ぐということは、新しく生まれ変わることを意味しています。タリバン政権が強いた家父長制、つまり女性蔑視が色濃く残っている社会の中で、人間として何を大切にして生きていかなくてはいけないのかを学ぶ、教育はそこから始まります。

「目を覆っていては、勉強ができない」と、サミラに言う女性教師の言葉が印象的です。「自分の目でしっかりと見なさい。自分のまわりで、世界で、何が起こっているのか。その現実の中に何を見なくてはいけないか、何をしなくてはいけないか、どう生きなくてはいけないかを、男性の言いなりではなく、自分の目でしっかり見なさい!」と言っているようでした。

ブルカで半分顔を隠している子は、恐れのある暗い顔ですが、ブルカから顔を出した子は、実にかわいい笑顔です。子どもたちの笑顔は、未来への希望です。ブルカの中へ自分を閉ざすのではなく、自分から開いて欲しい。マフマルバフ監督の子どもたちに対する思いが、強く伝わってくる映画でした。

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