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 名もなきアフリカの地で

2003年8月

Nowhere in Africa

名もなきアフリカの地で

  • 監督・脚本:カロリーヌ・リンク
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  • 原作:シュテファニー・ツヴァイク
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  • 出演:ユリアーネ・ケーラー、メラーブ・ニニッゼ、
         レア・クルカ、カロリーネ・エケルツ
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  • 音楽:ニキ・ライザー

2001年 ドイツ映画 2時間21分

  • 2003年第75回アカデミー賞最優秀外国語映画賞受賞
  • 2003年ゴールデングローブ最優秀外国語映画賞ノミネート
  • 2002年ドイツ映画賞最優秀作品賞受賞/最優秀監督賞受賞/
              最優秀音楽賞受賞/最優秀助演男優賞受賞
  • 2003年ババリアン映画賞観客賞受賞
  • 2002年ババリアン映画賞最優秀製作賞受賞、他、多数受賞

第75回アカデミー賞の、最優秀外国語映画賞に輝いた作品です。

ナチス支配下でのユダヤ人を描いた映画は、たくさんあります。昨年は「ぼくの神さま」「明日陽はふたたび」、今年になってからも、「バティニョールおじさん」「ふたりのトスカーナ」そして、大作の「戦場のピアニスト」。

「名もなきアフリカの地で」は、1938年に、ナチスの迫害がひどくなる前に、ドイツからアフリカのケニアへ渡った弁護士一家の話です。壮大なアフリカの大地、逃げてきた者を優しく迎えるアフリカの人々。考えの違いから、危機になる夫婦関係、両親の行方を心配しながらも、アフリカの人々の中でのびのびと成長していく一人娘。生きていく中で、節目節目に、だれもがしなければならい「決断」をテーマに、生きていくことの意味を問う作品としても見ることができると思います。

物語

1938年、ナチスの迫害を逃れてケニアに先に渡った父ヴァルター(メラーブ・ニニッゼ)からの手紙を受け、ドイツで暮らすレギーナ(レア・クルカ、10代はカロリーネ・エケルツ)は母イエッテル(ユリアーネ・ケーラー)とともに、船の列車の長い旅の末に、アフリカの大地に到着した。弁護士だった父は、荒れ果てた農場で、厳しい生活をしていた。

迫害から逃れるためとはいえ、ドイツでの上流階級の暮らしをしていたイエッテルには、アフリカでの生活はなじめそうにない。5年前にドイツを出て、アフリカの大地に根をおろしたヴァルターの友人ジェスキンが、レギーナたちにアフリカで生活する知恵を教えてくれる。

現地の料理人オウアは、レギーナのことを“小さなメンサブ(奥さん)”と呼び、言葉を教えたりしてかわいがってくれる。レギーナは、イエッテルが禁じたケニアの人々の地域に入っていき、彼らの遊びを教わったり、反対に絵本を読んであげたりして、すっかり友達になってしまった。レギーナはアフリカの魂を持っているとオウアは言う。しかし、ドイツに帰りたいと思っているイエッテルは、言葉を教えようとするオウアに冷たくあたる。アフリカでの生活を受け入れようとしないイエッテルに、ヴァルターは、自分たちがドイツを出たときの決断を思い出させる。

第2次世界大戦がはじまると、アフリカにいるドイツ人は敵国人として、英国軍に拘束され、男女別々に施設に収容されることになった。女性と子どもたちの宿泊所は、高級ホテルだった。豊かな料理、すばらしい調度品を見て、イエッテルはドイツでの生活を懐かしく思い出す。

しかし、農場主から解雇されてしまったヴァルターは、仕事を持っていないため、収容所から出ることができない。イエッテルは、ユダヤ人会会長に懇願するが、力にはなってもらえない。イエッテルは、通訳をしてくれた英国人兵士の誘いに身をまかせ、代わりにヴァルターに新しい農場が与えられる。

新しい農場は豊かで、現地の人を大勢雇い、安定した農場経営をすることができた。オウアもやってきて、家族には、幸せな生活が戻ってくる。

レギーナの教育を心配した両親は、高い教育費を払って、レギーナを寄宿舎に送ることにする。そこはプロテスタントの学校で、レギーナたちユダヤ人は、お祈りのときなどは列からはずされる。しかし、レギーナは、優秀な成績で学校生活を送り、校長先生からも一目置かれる存在となる。

故国ドイツでは、ナチスの迫害が厳しくなる。ドイツに残してきたヴァルターとイエッテルの親族は、ポーランドの収容所に送られたり、音信不通になったりしており、彼らのことを思うと、二人の心は暗かった。

ジェンスキンのすすめで、英国軍に参加することにしたヴァルターは、ナイロビに行くことにするが、イエッテルは農場に残ることを決意する。彼女はジェンスキンの助けを得ながら、農場経営に才能を発揮していく。彼女は、アフリカに生きるたくましい女性になっていた。

終戦の後、1947年、ヴァルターに、ドイツでの判事の仕事が提示された。その話を聞いたイエッテルは、何でも相談なしに決めてしまうヴァルターに腹を立てる。二人の心は離れたまま、ヴァルターはナイロビへと戻っていく。

そのとき、コオロギの大群が、空を覆う。イエッテルと農夫たちは、収穫が近いとうもろこし畑で、必死にコオロギを追い払う。その中に、ヴァルターの姿があった。

 

海外に逃げたユダヤ人たちの物語として、当時のことを知る大切な作品ですが、家族の成長の物語として、またヴァルター、イエッテル、レギーナたち、一人ひとりの人間の成長の物語としても、内容の深い作品です。

自分が大切だと思い必死に積み重ねてきたものが、自然を相手に生きている世界では、何の価値も持たないことを体験することをとおして、自分は一体、何を求めて生きているのかと、根本に立ち帰らされる場所が、アフリカの魅力のようです。

作家のシュテファニー・ツヴァイクは、自分の少女時代の体験をもとに執筆し、1995年にドイツでベストセラーになりました。女性監督のカロリーヌ・リンクは、真実の感動を伝えることを大切にし、実際にケニアにテントを張り、現地の人々の協力を得てロケをしました。

幅の広い画面は、見る者をアフリカの世界に引き込みます。褐色の草原で、のびのびと成長していくレギーナがとても魅力的です。彼女を見ていると、こちらの気持ちまで広く、軽やかになっていきます。

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