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 花

2003年10月

花

  • 監督:西谷真一
  • 原作:金城一紀
  • 脚本:奥寺佐渡子
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  • 音楽:村治佳織
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  • 出演:大沢たかお、柄本明、牧瀬里穂、西田尚美

2002年 1時間46分

  • 文部科学省選定

落ち着いた演技の大沢たかおと、個性的な俳優の柄本明が演じる、世代の違う男同士の旅の物語です。どちらも、命の危機を感じており、心には女性の存在が大きな場を占めています。彼らは、東京から鹿児島までの長い自動車の旅の中で、今までの生き方、これからの生き方を見つめていき、自分の人生をじっくりと受け取っていきます。

物語

営業成績がトップで、仕事が上り坂の会社員野崎陽一郎(大沢たかお)は、ある日、会社の玄関の前で、突然倒れ救急車で運ばれる。医師の説明では、動脈瘤で、危険な状態にあるという。もし手術を受けなければ、今回のようにまた倒れ、いつ死がくるか分からない。しかし、手術をして成功したとしても、記憶がなくなるかもしれないという。

どちらも怖くて選ぶことができない野崎は、とりあえず会社を辞める。アパートの部屋にこもっている野崎に、一つの仕事が舞い込んできた。ある男性の運転手として、1週間で、鹿児島までの運転をしてほしいというのだ。依頼人は、25年間、冤罪事件と取り組み、最近勝訴して有名になった弁護士の鳥越弘(柄本明)。

鳥越は25年前に妻(牧瀬里穂)と離婚していたが、その妻が数日前に鹿児島のホスピスで亡くなった。鳥越への遺品を残しているので取りに来てほしいという看護婦からの連絡を受け、それを取りに行くのだ。

野崎は、鳥越の指示するままに車を出発させる。鳥越は、高速ではなく国道を走るよう指示して眠ってしまった。旅の目的について何の説明もなく、2人の間に会話もない。この仕事に意味を見いだせないでいる野崎は、早々、運転を放棄してしまう。

「妻の顔が思い出せないんだ。」

鳥越から、別れた妻の話を聞いた野崎は、深い理由もしらず怒って車から降りてしまった自分を恥じ、鹿児島まで運転していく決心をする。

「妻の顔を忘れてしまったような自分に、遺品を受け取る資格があるのだろうか。」思い悩んだ末、新婚旅行と同じ道順で行けば、思い出すかもしれないと思った鳥越は、大きな仕事が一段落したこともあり、この自動車旅行を思いついたのだった。

野崎の素朴な質問に答えていくうちに、鳥越は妻との楽しかった時代を思い出していく。一方、記憶を失えば自分が自分でなくなってしまうという不安と、病気のことを恋人(西田尚美)に伝えられない苦しさを抱えていた野崎も、鳥越の思い出話を聞きながら、自分の辛さを鳥飼に話す。

「そう簡単に死ぬもんか。」

鳥越は、泣いている野崎の背中にそっと手を置く。

旅も中間点にさしかかった備前で、鳥越が熱を出し寝込んでしまう。実は、鳥飼自身も癌で、死の宣告を受けていたのだった。

旅の目的地、指宿のホスピスで、婦長から手渡された遺品を見た鳥越は、25年たって、やっと妻の本心に気づく。そして、妻の心を汲んであげられなかったことへの悔しさがこみ上げてくる。さらに妻は、鳥越のために驚くべきものを残していた。

 

2人との死を抱えおり、痛切に「生きたい!」と思っています。命にかかわる大きな出来事を受け入れるには、また、自分の心の中の声に気づくためには、考え、反抗し、戦う時間が必要です。

速く、速く……の時代の中で、物事を受けとめるには、ゆっくり、じっくり、時間をかけることが必要なんだよ、そうしないと自分の心も、他の人の大切な思いも、見落としてしまうよ……とやさしく語りかけてくる映画でした。見終わってから、この映画のじんわりとした味が、日に日に強くなってきます。

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