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 精霊流し

2003年12月

精霊流し

  • 監督:田中光敏
  •   
  • 原作:さだまさし著『精霊流し』(幻冬社刊)
  •   
  • 脚本:横田与志
  •   
  • 音楽:大谷幸
  •   
  • 主題歌:さだまさし「精霊流し」
  •   
  • 出演:内田朝陽、高島礼子、松坂慶子、
         酒井美紀、池内博之、田中邦衛

2003年 日本映画 109分

  • 文部科学省選定<青年向け>

さだまさしの「精霊流し」は、哀調をおびた曲と、恋人の死を思う心がそのまま表現された悲しい歌で、大ヒットしました。この歌が生まれた背景を描いたさだまさしの自伝的小説『精霊流し』が、2人のすてきな女優を迎えて映画化されました。あの歌のように、人を思うことや人間の心のやさしさをしみじみと味あわせてくれる作品です。

物語

小学生の櫻井雅彦(内田朝陽)は、美しい母・喜代子(高島礼子)に愛されて育っていた。ある日、学校の帰り道で、川岸の崖の上に咲くバラを見つけた雅彦は、愛する母のために崖のよじのぼってそのバラを取る。母はそのバラを大切に受け取り、広い屋敷の庭の隅に挿し木する。「根付きますように」と祈りながら……。その後、父(田中邦衛)の仕事がうまくいかなくなり、一家は山の上の小さな家に引っ越す。

母は雅彦に「好きなことをしなさい」といつも言っていた。雅彦がヴァイオリン奏者になることを夢見ている母の薦めで、雅彦は、鎌倉に嫁いだ母の妹・節子(松坂慶子)の家で暮らすことになる。

節子には、先妻の子・春人(池内博之)がいた。春人は節子に憧れ、甘えたかったのだが、反面、仕事で毎晩酔って帰ってくる節子はきらいだった。

節子は雅彦に、「疲れていない?」と聞くのが口癖だった。そして「心に素直に生きれば、苦しいこともあるけれど、不幸になることはないのよ」といつも言っていた。節子を慕っている近所の女の子・木下徳江(酒井美紀)も、この言葉をよく聞かされていた。雅彦と徳江は、お互いを親しく感じていた。しかし、春人も徳江を思っていた。

ある日、長崎から母が鎌倉にやってきた。神社の裏の道で、叔母は上手になったヴァイオリンを母に弾いてみせるようにと促した。雅彦のヴァイオリンを、姉妹は何かを思いながら聴いていた。

大学生になった雅彦は、小さな自動車工場でのアルバイトに明け暮れしていた。母も亡くなり、ヴァイオリンは、いつしか部屋の隅に忘れ去られ、大学の仲間と作っていたバンドも解散した。

節子が、突然離婚し、長崎に住みたいと言い出した。長崎に戻った節子は、海が見える丘に、長年の夢だったジャズバー「椎の実」を開いた。節子を慕っていた春人は悲しみに沈む。

徳江が自分の思いを雅彦に伝えたが受け取ってもらえず、悲しく思って泣いていた夜、春人が訪ねて来た。徳江は、春人をやさしくなぐさめる。

春人は、節子を追って長崎に行き、「椎の実」で一緒に働くようになった。長崎で落ち着きはじめたころ、春人は、ボートから落ちて帰らぬ人となった。

春人の死を聞いて長崎に戻った雅彦は、節子が入院したことを聞く。見舞いに訪れた雅彦に、節子は原爆が落ちた日に、学校から長崎市内に戻ってきたとき、偶然恋人と再会したことを話す。「一番苦しい、憎むべき日が、私の人生で一番うれしい日になった」と。そして、血液のガンに冒されていることを打ち明ける。

精霊流し

実家に戻った雅彦に、父は、節子が実の母親であると打ち明ける。そして父は、3人がかつて住んでいた広い家に連れていく。門をくぐった雅彦は目を見張った。そこには、母が挿し木をしてくれた赤いバラがつるをのばして家中をおおい、みごとな花を咲かせていたのだ。

精霊流し

雅彦は理解する。小学生のとき、叔母のところへ行かせたのは、実の母のもとで暮らせるようにという母の計らいだったこと、そして、その母の思いに応えて、妹である叔母は、決して本当の事を口にしなかったことを。

春人と実の母・節子の精霊を送り出そうとしている雅彦は、徳江のお腹の中にいる新しい命を育てる決意をする。

精霊流しの船を作るために、大学の歌仲間が手伝いに来てくれた。再びヴァイオリンを手にした雅彦は、節子と春人の精霊船を作りながら、2人への思いを歌にするのだった。

 

映画の終わりに、長崎のお盆の行事「精霊流し」が映し出されます。亡くなった人の魂を船に乗せて海へと送り出すために、友人や近所の人が集まり、何日もかけて精霊船を造っていきます。思いをこめて船を飾り、8月15日の夜、町を練り歩いて海まで運んでいきます。

船を造りながら、愛する人との日々を思い出しじっくり味わっているのでしょう。思い出を追体験することによって、愛する人を失った悲しみが次第に癒されていくのではないかと思いました。船を送り出す日には、亡くなった人と別れる覚悟ができているんじゃないかなと思います。実際に自分の手で船(=魂)を別の世界に送り出すことによって、自分も新しく生きていくよ……と思うのではないでしょうか。すばらしい行事だなと思いました。このように送られた人、そして送ることができる遺族は幸せですね。

お盆の夜の精霊流しの場面に表れているように、この映画は、人と人の思いを、何気なくそっと表現しています。日常生活はあわただしく過ぎていくけれど、毎日の出来事の下で、人間の心は、愛する人への思いに揺れ動いています。子どもを、夫を、妻を、親を、愛する人を、そっと、しかし深く思っているのですよね。

人のやさしさにも気づき、私の中にもきっとあるやさしさを育てたいなと思いました。

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