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 ライファーズ -終身刑を超えて-

2004年10月

Lifers Reaching For Life Beyond The Walls

ライファーズ

  • プロデューサー・監督・編集:坂上 香
  • 音楽:ロジャー・スコット・グレイグ
  • ナレーター:マヤ・ムーア

2004年 日本映画 91分

  • 2004年ニューヨーク国際インディペンデント映画祭
        《海外ドキュメンタリー部門》最優秀賞受賞作品

米国には、300万人を超える受刑者がいます。その中に、「ライファーズ」と呼ばれる終身刑や無期刑受刑者たちが10万人あまりいます。殺人などをおかし、「更正不可能」と思われてきました。まして、刑務所の外へ出て、社会復帰することは考えられないことでした。しかし、今、変化が起こっています。ライファーズが参加している犯罪者の更正施設「アミティ(AMITY)」でのプログラムが、彼らを変えているのです。さらに、「アミティ」でプログラムを受けたライファーズが、他の受刑者たちを指導する立場になり、彼らに、社会で再び生き直そうという希望を与えているのです。

映画「ライファーズ」は、アミティのプログラムを受け、互いに分かち合いながら信頼関係を築いているライファーズの刑務所での生活、指導者として他の受刑者グループを指導するライファーズの指導の様子と彼らへのインタビュー、仮釈放を申請したライファーズの仮釈放委員会での様子、ライファーズの家族、釈放されて社会で生きるようになってからも、受刑者たちに「アミティ」のプログラムを行うため刑務所に通っている元ライファーズの男性などを追っていきます。

プログラムをはじめたのは、自らが受刑者だった一人の女性でした。「受刑者の心は、受刑者でなければ理解できない」と、彼女はライファーズの心の解放を求めてプログラムを実行しはじめました。受刑者たちは、「自分たちは、なぜ犯罪を犯すようになったのか」自分の心の中を見つめていきます。

肩幅の広い頑丈な体格の男性受刑者たちが、10人ほど分かち合っています。2人一組になり、片方がもう一人の手をじっと見つめています。手のひらのシワを指でなぞったり、表にかえして甲をなでたり。指を一本一本なぞったり……。さわって、見つめてから感じたことを相手に伝えます。「いろいろな仕事をしてきた手だ。ごついが、やさしい手だ。」交代して見ます。その分かち合いが終わると全体で輪になり、手に触り、見合ったことについて感想を言い合います。「他人から、こんなに手を握ってもらったことはなかった。とてもうれしかったよ」。犯罪を犯した男たちが、子どものように素直になって自分の心を話しています。

最初から、互いがこのように分かち合えたのではありません。なかなか輪に入ってこない受刑者もいました。しかし、一人のライファーズによって、みなの心が溶けあっていったのです。彼の名は、レイエス・オロスコ。彼は、こう語っています。

「釈放されるかどうかが問題なのではなくて、受刑者である私たちは、自分の中に作り上げた『牢獄』から解き放たれる必要がある。」

釈放されても、また刑務所に戻ってくる人も多い受刑者たちは、今までの生き方を変える可能性があることを体験していきます。

プログラムを実践していくためには、互いの信頼関係と、変わることができるという希望を持つことが大切です。グループの中での規則は一つ、「ここで話したことは、決して外では話さない」ということです。

レイエスがいる刑務所では、アミティのプログラムは成功していますが、他の刑務所では、喧嘩がおき、互いの信頼関係が築けずに初期の段階でプログラムを中断してしまったところがありました。元ライファーズで、今は釈放されて社会で暮らす一人の男性は、プログラムを再開できないかと、刑務所でのクリスマスパーティーを計画しました。喧嘩騒動から久しぶりに集まった受刑者たちは、彼の思いに感謝し、とてもすばらしいクリスマスを迎えることができたと喜んでいました。再び牢に入れられた受刑者たちは、帰る彼の後ろ姿に、涙を浮かべながら「ありがとう!」と言葉をかけます。今度は大丈夫かもしれません。

映画は、ライファーズや受刑者たちを描いていますが、人間にとって一番大切なものは何なのか、「相手を受け入れる」という人間としてのもっとも基本的な信頼関係について問いかけているように感じました。

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