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 シークレット・サンシャイン

2008年5月

密陽(ミリャン)

シークレット・サンシャイン

  • 監督:イ・チャンドン
  • 原作:イ・チョンジュン『虫の物語』
  • 音楽:クリスチャン・バッソ
  • 出演:チョン・ドヨン、ソン・ガンホ、チョ・ヨンジン、
       ソン・ジョンヨブ
  • 配給:エスピーオー

2007年 韓国映画 142分

  • 2007年カンヌ国際映画祭 女優主演賞
  • 2007年アジア・パシフィック・スクリーン・アワード最優秀映画賞、主演女優賞
  • 2007年大韓民国映画大賞 最優秀作品賞、監督賞、男優主演賞、女優主演賞
  • 2007年青龍映画賞 女優主演賞)
  • 2007年韓国映画評論家協会賞 女優演技賞
  • 2007年韓国映画文化賞
  • 2007年大鐘賞映画 祭特別賞
 

愛する息子を失った場合、それも他者の手によって殺された場合、母親の喪失感には計り知れないものがあります。彼女のために、祈り、支えてくれる人々によって、いったんは力を取りもどしますが、それは、まだ人間の世界のことでした。本当にいやしてくれるのは、神以外にはいないということを感じました。人をゆるすというのは、自分の心の満足のためではいけないのです。もっと深いところから来る本当のゆるしでないと、心は苦しみ続けます。それは、十字架の上で自分を殺す人、罪深き人間をゆるされたイエスのゆるしに触れるものでしょう。「神があなたのそばにいるよ。神が力になってくれるよ。」生きる力を失った母親に、そう声をかけてあげたくなりました。

タイトルの「シークレット・サンシャイン」は、母と子が暮らし始めた町・密陽(ミリャン)の英語読みです。

 

物語

夫を交通事故で失ったシネ(チョン・ドヨン)は、幼い息子ジュン(ソン・ジョンヨブ)を連れて、夫が好きだった町・ミリャンへやって来た。ミリャンは夫の故郷で、ここで再出発をしようとソウルから車を走らせて来たのだ。しかし、町を目の前にして車が動かなくなり、小さな修理工場をいとなむジョンチャン(ソン・ガンホ)のレッカー車で町へと向かった。一目でシネに好意を持ったジョンチャンは、その後、何かとシネの世話を焼いた。

シークレット・サンシャイン

シネはミリャンの商店街でピアノ教室をはじめた。町の人々は、夫を亡くしたシネを何かと心配するが、シネは「不幸ではない、二人で立派に暮らしていく」と彼らと距離を置いて過ごしていた。同情されまいとしたシネは、ジョンチャンの紹介で土地を捜したりして資産家のように振る舞い、町の人々も彼女をそう見るようになっていった。

シネはジュンを弁論教室に通わせていた。ある日、弁論教室が終わり教室パク先生(チョ・ヨンジン)の車で帰宅したシネは、向かいの薬局のおかみさんから呼び止められた。話を終えて家に戻ってみると、ジュンの姿が見あたらなかった。二人で暮らすシネは、ちょっとでもジュンの姿が見えないと不安になり脅えた。気が狂ったように探したが、それはジュンのいたずらだった。しかし、ある夜、それは現実のこととなった。近所の奥さんたちと楽しい夜を過ごして家に帰ってみると、留守番をしていたジュンの姿が見あたらない。電話が鳴った。それは、ジュンを誘拐したという犯人からの電話だった。

犯人に身の代金を渡すと約束したシネだが、犯人の要求にこたえるだけのお金は持っていなかった。不安がいっぱいのシネはだれかの助けを借りようとジョンチャンの工場へ向かうが、彼はカラオケで楽しく歌っていた。

だれにも打ち明けられないシネは、翌日、犯人が指定した場所にお金を持っていった。しかし、シネの願いはかなわず、ジュンは川辺で遺体となって発見された。

犯人は、信頼してジュンを任せていたパク先生だった。ジュンを失ったシネは、亡霊のようになっていた。見かねた薬局のおかみさんは、教会へ行き牧師先生に話を聞いてもらったら……とシネに声をかけた。はじめは拒否していたシネだったが、ある日教会へと向かった。聖堂で数々の苦しみを抱えている人たちが、自分の胸の内を明かしている姿を見て、その雰囲気の中で思い切り大声で泣いた。今まで一人で耐えていたものがはちきれたようだった。

教会活動によって、シネは元気を取りもどしていった。洗礼を受け、信者たちは彼女のために熱心に祈り支えた。シネを遠くから見守るジョンチャンも、教会に来るようになった。信者たちと交わりながら、人とかかわることの温かさを感じてきたシネは、促されるようにある決心をする。それは、ジュンを殺した犯人をゆるすという思いだった。「あなたの敵をゆるし、あなたの敵を愛しなさい」という言葉を生きるよう招かれていると感じたシネは、刑務所を訪れる決心をした。

犯人と面会したシネは、「神の恵みによってあなたに神の愛を伝えるために来た」と話し始めた。そこまで聞いた犯人は、シネの言葉を遮り、「わたしも、刑務所に入ってから心に神を迎えた。苦しい思いでいたが、神が罪をゆるしてくださった」と。

シネは驚いた。どうしていいかわからなくなった。「自分が犯人をゆるすためにここに来たのに、神が先にゆるを与えるとはどういうことか。」シネはこのことを受け入れることができなかった。シネは再び家にこもるようになり、この世に存在する自分を破壊するような行動に出ていった。

シークレット・サンシャイン

 

 

深い作品だと思いました。作品紹介では、「シネは、自分をじっと見守っているジョンチャンの存在に気づくことができるのか……」という方向に持っていきたいようですが、見終わったとき、人のゆるしと神のゆるし、人が最終的に助けを求める先はどこなのか。苦しむ人をじっと見守ってくださっている神の存在を感じる、なかなか深い作品だと思いました。「シネ、あなたの苦しむ姿を神はじっと見てくださっているよ。あなたは、神の存在に気づき、助けを求める手を伸ばせばいいだけなのだ。シネ、早く気づいて……」と、言いたくなりました。

信者さんたちは一所懸命にシネを支え、彼女のために祈っています。しかし、シネの心の闇の深いところに到達するまでにはいたりません。信仰を持つ者の祈りを、問われているように感じました。

苦しむ母親を演じたチョン・ドヨンは、昨年のカンヌ映画祭で主演女優賞に輝きました。山口県光市で起きた母子殺害事件の遺族である本村さんの苦しみを思い出しました。このような苦しみを受けている人がどれほど多いことでしょう。怒りの矛先をだれに向けることもできないたくさんの被害者遺族の方々の苦しみを思いました。

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