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 扉をたたく人

2009年6月

the Visitor

扉をたたく人

  • 脚本・監督:トム・マッカーシー
  • 音楽監修:メアリー・ラモス
  • 音楽:ヤン・A・P・カチュマレク
  • 出演:リチャード・ジェンキンス、ヒアム・アッバス、
       ハーズ・スレイマン、ダナイ・グリラ
  • 配給:ロングライト

2007年 アメリカ映画 1時間44分

  • 2009年アカデミー賞最優秀主演男優賞ノミネート
  • 2009年サテライト賞最優秀脚本賞、最優秀男優賞受賞
  • 2008年セントルイス国際映画賞最優秀音楽賞受賞
  • 2008年LA.com賞助演女優賞受賞
  • 2008年モスクワ国際映画祭最優秀男優賞受賞
  • 2008年ドーヴィル映画祭グランプリ受賞
  • 他、多数ノミネートおよび受賞。
 

脇役として何本もの作品に出演していたリチャード・ジェンキンスが、俳優生活40年目にして、初めて主役を演じたら、それがアカデミー賞主演男優賞にノミネートされるという快挙をなしとげました。初老の孤独な男性が、若者とぎこちなくかかわりながら、心を開き、人生を開いていくさわやかな物語です。しかし、もう一方で、アメリカに住む移民の人々のあやうい立場が描かれており、そこはなんともすっきりしないアメリカ社会の対応が出ています。

膝にはさんでたたくシャンベという楽器が、人の心を開き、人と人をつながるために大切な役を果たしています。

物語

コネチカットにある大学で経済学を教えているウォルターは62歳。妻を亡くしてから一人で暮らしている。息子は、ロンドンにいるが疎遠だ。必要最低限しか人と交わらず、孤独に生きていた。優秀な学者だが、生徒にも厳しく、同僚とも交わらず、難しそうな顔をして無気力に授業を行っていた。ただ、熱心にピアノを習っていたが、自宅に教えに来る先生からも匙を投げられていた。

そんなウォルターが、学会に出席するためニューヨークに出張することになった。共同研究者が発表する予定だったが行けなくなり、他には彼しかいないのだから仕方ない。

車を走らせ、マンハッタンに持っている自分のアパートにやってきた。しかし、だれかが住んでいた。すでに住んでいるふたりから強盗と間違えられ殴られそうになるが、必死に説明し、そのアパートはウォルターの持ち物だと理解してもらった。彼らはだまされたことを知る。

ふたりはシリアから来た青年タレクと、彼の恋人でセネガル出身のゼイナブだった。「警察は呼ばないでくれ」と言って、ふたりは荷物をまとめて部屋を出て行く。しかし、行く当てのない彼らをふびんに思ったウォルターは、しばらくアパートに泊めることにする。

人とかかわろうとしないウォルターに、クレタはなにかと言葉をかけて接するが、ゼイナブはかたくなだった。自分がたたいている太鼓・ジャンベに、ウォルターが興味を示したと分かると、タレクはたたき方を教えてくれた。ウォルターとタレクはジャンベをとおして、友情を育てていった。露天でアクセサリーを売っているゼナイブも、次第にウォルターを信用するようになる。

学会の休憩時間に、公園に連れて行ってもらったウォルターは、公園に集まっているいろいろな国の人々とともにジャンベをたたき、心の開放感を味わう。

しかし、地下鉄の改札で、切符を持っていなかったウォルターの変わりに、タレクが警察に捕らえられてしまう。「切符を持っていなかったのは自分だ」といくら主張しても取り合ってもらえない。タレクは入国管理局の拘置所に移送される。ゼイナブは、入管に捕らえられる心配があるので面会に行けない。ウォルターがいろいろと手をつくすが、タレクの状況は次第に悪くなっていく。やがて、連絡がとれなくて心配になったタレクの母親モーナがアパートを訪れる。タレクの釈放を求めて、モーナとともにあらゆる手をつくすウォルターだったが……。

 

前作を製作するために過ごしたベイルートでの体験から、米国での移民の立場に関心を持ったマッカーシー監督は、政府の移民政策に関するいろいろな資料を読み調べました。そして、9.11以降、米国が不法滞在者をどのように扱っているか疑問がわき、この映画の物語へとつながっていきました。そこへ、生きる気力を失った初老の大学教授という人物設定が加わり、それらがひとつになってこの作品が生まれました。母と息子の思い、男女の愛、友情、音楽、自己との出会い、同じ地域でともに生きる人への思い、民族の違いなどいろいろな視点から見ることができる豊かな作品です。

リチャード・ジェンキンスの自然な演技がすてきでした。堅物の教授から、偏見なく積極的にかかわってくれるタレクによって、自分の生き方に活力がわき、愛情深く女性たちに接し、他者のために必死になるウォルターがとても格好よく、身近に感じました。


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