home>シスターのお薦め>お薦めシネマ>エンディングノート

お薦めシネマ

バックナンバー

 エンディングノート

2011年10月

ending note

エンディングノート

  • 撮影・編集・監督:砂田麻美
  • 製作・プロデューサー:是枝裕和
  • 主題歌:ハナレグミ
  • 配給:ビターズ・エンド
  • 配給:日活

2011年 日本映画 90分

  • セバスチャン国際映画祭新人コンペティション部門正式招待作品

「エンディングノート」とは、人生の終わりを迎えるにあたって、自分の人生の記録や思い、家族に伝えたいこと、最期の治療などの希望、葬儀や埋葬の方法、財産や保険などについて書き込んだものです。書店にいくと、実際に書き込むようになっている何冊かのエンディングノーが並んでいました。

このドキュメンタリー映画の被写体である砂田知昭氏は、40年働いた会社を退職した2年後の2009年5月に、検診で胃ガンが見つかりました。それもステージ4で手術を受けることができない状態だと宣告されました。営業マンとして働き続けた砂田氏の頭に浮かんだのは「段取り」でした。「自分の人生の段取りを考える」。最期の時に向けて、砂田氏は家族のためにエンディングノート作りに取り組みます。

砂田家では、子どもたちが小さいころから、ホームビデオを撮り続けていました。次女の砂田麻美さんは、それまでと同じように、最期に向かって準備する父親と家族の姿に、カメラを向けていきます。砂田氏が思っていたよりも早く病状は進み、2009年の暮れに亡くなりました。年があけて葬儀が行われ、その後、麻美さんは、それまでに撮りためたフィルムをまとめ始めました。麻美さんは、是枝監督が新しい作品「奇跡」を製作するにあたり、スタッフとして参加するようにと是枝監督から呼ばれたのですが、それを断ってフィルムの編集作業を行いました。8月、まとめた作品を是枝監督に見てもらいました。しばらく沈黙が続いた後、「これは映画になると思うよ」という是枝監督のことばをもらいました。その後、劇場公開映画としての配給会社も決まりました。

砂田氏の死へと向かっていく日々が、「神父を訪ねる」「気合いを入れて孫と遊ぶ」「自民党以外に投票してみる」「最後の家族旅行」「死の準備」「最後の晩餐」「最後の段取り」「妻に(初めて)愛していると言う」「最期の日」「エンディングノート」という章立てで進んでいきます。

エンディングノート
(C)2011「エンディングノート」製作委員会


何よりも心を打つのは、砂田氏の明るさです。父親の明るさが家族にも浸透し、父親の死を受け入れていくことに悲壮感がありません。愛してやまない孫たちとの日々、妻・淳子さんとの心の深いところでのつながり、3人の子ども(長男、長女、次女である麻美さん)たちへの愛、さらに、94歳になる砂田氏のお母さんへの優しさが、ホームビデオで写されていきます。見ている者は、砂田一家の家族になったように感じます。

夫婦げんかの場面や、病院の別途での最後の夫婦の語らいなど、他人には見せたくないのでは……と思われる場面もあります。劇場公開を受け入れられた、ご家族の懐の深さに驚きました。

エンディングノート
(C)2011「エンディングノート」製作委員会


砂田氏は、葬儀の式場も選びました。家から近い場所であること、無駄なお金はかけたくないことなどから、葬儀の式場は東京・四ッ谷の聖イグナチオ教会にしました。「最期に向かって信心深く過ごそう」という思いではないと神父に打ち明け、神父もそれを受けて、「大事なことだけを学んでください」と話し始めたイエスの最後の晩餐のお話は心を打ちます。

「わたしは死ねるでしょうか? 上手に死ねるでしょうか?」

砂田氏のことのことばは、心に残ります。自分の死をどのように迎えるのか、家族の死をどのように支えるのか。砂田一家の記録は、わたしたちに死ぬ最後まで、家族や友人と交わりながら精一杯生きることのうれしさを教えてくれます。

娘の麻美さんが、砂田氏の内なる声をナレーターとして語っていきます。ここにも、麻美さんのお父さんへの愛があふれています。悲しい家族との別れですが、「わたしもあのようになりたい」という気持ちになるとてもさわやかな作品です。


▲ページのトップへ