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 The Lady ひき裂かれた愛

2012年 6月

 

the lady

  • 監督:リュック・ベッソン
  • 脚本:レベッカ・フレイン
  • 音楽:エリック・セラ
  • 出演:ミシェル・ヨー、デヴィッド・シューリス
  • 配給:角川映画

2011年 フランス映画 2時間13分


15年間という長い間の自宅軟禁状態から解放され、今、欧州を訪問中のアウンサンスーチー氏の物語です。今まで表に出て来なかった夫と子どもたちの支え、ミャンマーの民主化を願って彼女を民主化のリーダーとかかげながらも、その背後では多くの支援者や市民が捕らえられ、拷問を受けていました。文字通り「涙と感動のドラマ」です。その苦しみを経た彼女が、ヨーロッパを訪問し、ノーベル平和賞受賞のスピーチを行っています。あきらめることなく、理想を求め続けることの力強さを感じます。

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1947年、幼い娘に、ビルマという国の物語を語っていたアウンサン将軍は、迎えの車に乗って登庁した。会議室に入ると、政府を守る兵士たちの反逆によって銃殺され、命を落とす。アウンサンスーチー2歳のときだった。

英国のオックスフォード大学で学んだスーチー(ミシェル・ヨー)は、チベット・ヒマラヤの研究をするマイケル・アリス(デヴィッド・シューリス)と結婚し、2人の息子に恵まれ、イギリスで幸せに暮らしていた。ある日、母が心臓の発作をおこし倒れたとの連絡が入り、単身、ビルマに向かう。

ビルマでは、1962年から続く軍事政権に反対する民主主義運動が活発に行われていた。病院で母の看病にあたっていたスーチーは、学生を中心にしたデモ隊に軍が無差別に発砲し、血まみれになったたくさんの学生が病院に運ばれてくるのを見て驚く。彼女の真っ白なブラウスも、助けようと手を貸した学生の血に染まっていた。

よくなった母を自宅に連れ帰ると、英国からマイケルと二人の息子がやってきた。久しぶりの再会に喜んでいるところへ、アウンサン将軍を「ビルマ建国の父」とあがめるている人々がやってきて、スーチーに選挙への出馬を懇願した。

The Lady
(C)2011 EuropaCorp - Left Bank Pictures - France 2 Cinema


「経験がない」と断るスーチーに、マイケルは「今がやるべき時ではないか」と言う。人々の熱意と夫の支えを得て、彼女は出馬を決める。

演説会場となった広場には、数十万の人であふれていた。「祖国への愛は少しも揺るぎません。目標に向かって力強く前進しましょう」と呼びかける、生まれてはじめての演説は大成功だった。こうしてアウンサンスーチーは、民主主義運動のリーダーとなっていった。

しかし、この映像を見た独裁者ネ・ウィンは、怒りを爆発させた。スーチーと支持者たちが選挙の準備をはじめようとしたとき、突然兵士たちがやってきて、マイケルのビザを取り消しに国外退去を命じた。マイケルは、あわただしく荷物をまとめ、スーチーとの別れのあいさつもそこそこに出国した。

選挙のために地方遊説がはじまり、スーチーは行く先々で歓迎を受けた。スーチーの人気におびえたネ・ウィンは、スーチーにイギリスに帰るよう説得する。しかし彼女は、「わたしはビルマに対し義務があります」と断る。「彼女を殺せば、アウンサン将軍のように殉教者となって人々にあがめられてしまう。殺すわけにはいかない」。ネ・ウィンが考えた案は、スーチーを支持者から離すことだった。こうして彼女は自宅軟禁に処せられた。働いていた人は追い出され、兵士たちが家を包囲し、鉄条網を敷いて電話線を切った。こうしてスーチーは、家族、国民、世界から隔絶された。1989年のことだった。

The Lady
(C)2011 EuropaCorp - Left Bank Pictures - France 2 Cinema


 

アウンサンスーチーを演じているミシェル・ヨーは、アウンサンスーチーの映画化を強く希望しており、リュック・ベンソンに協力を頼みました。レベッカ・フレインの脚本を読んだリュック・ベンソンは、監督を申し出て映画化が実現しました。ミシェル・ヨーは、200時間という長さの映像を手に入れ、容姿だけでなく、英語の話し方をつかみ、ビルマ語も学びました。映画に出てくるミシェル・ヨーは、アウンサンスーチーそのもののようです。彼女の気品、賢さ、孤独、愛情深さ、強さをよく現しています。

自由の身になって、今後は今までの分を取り返すようにして活躍していくであろうこの時に、ミャンマーにどれだけの犠牲があったかを知らせる映画が公開されることは、とても意義深いと思います。

真実の歴史を知るために、軍事政権の下で民主化をすすめることがどんなに大変なことかを知るために、また、家族を愛し、花を愛し、国を愛し、国民を愛したすばらしい女性の生き方に触れるために、ミシェル・ヨー渾身の「The Lady ひき裂かれた愛」を、ぜひご覧ください。

※国名について:1989年、当時の軍事政権によって対外的な国の名として「ビルマ」から「ミャンマー」に変えられました。しかし、アウンサンスーチー氏はこれを認めていません。

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