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 楽園からの旅人

2013年 8月

THE CARDBOARD VILLAGE

楽園からの旅人

  • 監督・脚本: エルマンノ・オルミ
  • 音楽:ソフィア・グバイドゥーリナ
  • 出演:マイケル・ロンズデール、ルトガー・ハウアー
  • 配給:アルシネテラン

2011年 イタリア映画 1時間27分

  • 文部科学省選定(青年・成人向き)



まるで舞台劇のような、荘厳な展開です。場面は、教会の聖堂と、司祭室、いくつかの部屋だけです。夜の出来事なので、色も暗く抑えてあり、言葉数も少なく、抒情詩のような映像が出来上がりました。イタリアの巨匠エルマンノ・オルミ監督の最新作です。5年前に製作された「ポー川のひかり」を“人生最後の劇映画”と語っていましたが、今、再び監督はメガホンを取りました。

「木靴の樹」で代表されるように、オルミ監督は、社会の底辺に生きる人々を取り上げながら、世に多くの問題を提示してきました。「ポー川のひかり」では、伝統的な書物を大切にし、扉を閉ざしている教会の姿に対して、地位も持てる物もすべてを捨てて、土地を追われる人々の中に入る一人の男性を描きました。村人たちが抱える問題を聖書のたとえ話と結び合わせえて説きながら、わたしたちに今を生きるキリストの姿を提示してくれました。

今回の「楽園からの旅人」も、現代の教会の姿を痛烈に批判しながら、これからの教会の姿を提示しようとしているようです。


物語


かつて大勢の信徒が集まり、ミサや祈りが行われていた聖堂。今は、廃墟のようになった聖堂に、一人の老司祭(マイケル・ロンズデール)が登場します。大きな十字架、飾られた聖人たちの像。それらを、いとおしみながら見つめる彼の前に、大きな重機が運ばれ、十字架が、物として扱われ取り下ろされます。老司祭は嘆きますが、今となっては、なすすべもありません。教会管理人(ルトガー・ハウアー)が、次々と指示を出していき、聖堂はやがて静かになり、何もなくなりました。人々がミサに集い、彼らに説教をしてきたあの日々。信者たちは、どこへ行ったのでしょうか?

楽園からの旅人
(C) COPYRIGHT 2011 Cinemaundic


楽園からの旅人
(C) COPYRIGHT 2011 Cinemaundici


関係者の去った聖堂は、無残な姿になりました。悲しみながら部屋に戻った老司祭は、手に載るほどの小さな馬小屋の像を、祭壇があった場所に置きます。

夜、一人の男が裏の扉をたたき、かくまってほしいとある家族を連れてきます。彼らは不法入国者でした。最初は驚いた老司祭ですが、彼らを中に招き入れます。すると、どこかで聞いたのか、次々と人々が裏の扉から入ってきます。外は、雨です。彼らは、別々のグループです。

楽園からの旅人
(C) COPYRIGHT 2011 Cinemaundici


司祭は、彼らに聖堂を開放します。あるグループは、聖堂に並ぶ椅子の背に大きな布をかけ、その下に体を横たえました。まるで、難民キャンプのようです。別の者たちは、祭壇の脇に腰を下ろしました。

い教会の部屋、聖堂の中で、次第に彼らの素性が語られていきます。

 

現代世界は、国境を越えて、または国内でも「移民」ということが大きな社会現象になっています。自分の住むところを追われて故郷を出される人々、または、よりより場所を求めて、自ら生まれたところを去る人々、いろいろな理由での移民があるでしょう。移り住む人々、受け入れる人々、それによって、交わりと混ざり合いが生まれ、文化や伝統がすたれたり、新しく作られたりします。「移民」からは、さまざまなテーマが広がっています。

シンボリックな映像で、監督の提示しているこの内容を見ながら、深く黙想したい思いにかられます。現代における教会の姿、教会共同体の役割、ひいては、人間一人ひとりの隣人に対しての姿勢を考えさせられる作品です。


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