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残像

2017年 6月

AFTER IMAGE

 残像

  • 監督・脚本:アンジェイ・ワイダ
  • 脚本:アンジェイ・ムラルチク
  • 音楽:アンジェイ・パヌフニク
  • 出演:ボグスワフ・リンダ、ゾフィア・ヴィフラチュ、 ブロニスワヴァ・ザマホフスカ
  • 配給:アルバトロス・フィルム

2016年 ポーランド映画 1時間38分

  • 2017年アカデミー賞外国語映画賞ぴポーランド代表作品
  • 2016年トロント国際映画先マスター部門上映作品

2016年10月19日、ポーランドの巨匠、いえ、世界中に影響を与え、世界中から尊敬されたアンジェイ・ワイダ監督が亡くなりました。90歳でした。が亡くなりました。政府的迫害を受けて亡くなっていったポーランド人の画家ヴワディスワフ・ストゥシェミンスキの最後の4年間を描いた作品ですが、彼の姿にアンジェイ・ワイダ監督の人生が重なります。アンジェイ・ワイダ監督の、最後のメッセージが込められた作品です。


物語

第2次大戦直後のポーランド中部の町ウッチ。美大生のアンナ(ゾフィア・ヴィフラチュ)は、すばらしい才能を持った芸術家ヴワディスワフ・ストゥシェミンスキ(ボグスワフ・リンダ)を探していた。自ら創設にかかわったウッチ造形大学で教鞭をとるストゥシェミンスキは、草原で授業を行っていた。戦争で右足を失い松葉杖で歩いているストゥシェミンスキは、歩くよりも速い方法として、草原の斜面を身体を転がしてハンナのところにやってきた。

「ものを見ると目に像が映る。見るのをやめて視線をそらすと、今度はそれが残像として目の中に残る。形こそ同じだが補色なんだ残像は、ものを見た後、網膜に残る色なのだよ。人は認識したものしか見ていない」と、ストゥシェミンスキは学生たちに語る。彼を慕う学生たちは、「近代絵画の救世主」とたたえていたが、スターリン主義の体制の中で、大学は政府にしたがわざるをえず、芸術は政治の理念を反映するものだという理念を、芸術家が学生たちに強制していった。そんな中でストゥシェミンスキは、政治に芸術を結びつけることを認めず、党に反抗する道をすすむことになった。

残像
(C)2016 Akson Studio Sp. z o.o, Telewizja Polska S.A,
EC 1 - Lodz Miasto Kultury, Narodowy Instytut Audiowizualny,
Festiwal Filmowy Camerimage-Fundacja Tumult All Rights Reserved.


残像
(C)2016 Akson Studio Sp. z o.o, Telewizja Polska S.A,
EC 1 - Lodz Miasto Kultury, Narodowy Instytut Audiowizualny,
Festiwal Filmowy Camerimage-Fundacja Tumult All Rights Reserved.


大学から追われたストゥシェミンスキは、デザイナー協会のメンバーから除名された。デザイナー協会の会員証がないので絵の具を売ってもらうこともできず、食料切符も配布されないので、食品を買うこともできなくなった。仲間やハンナたちが働き場所を探してくれたり、食事を持ってきてくれたりするが、デザイナー協会に属していないことがわかると解雇され、彼の生きる場は、次第に締め付けられていく。カフェの壁を飾った彼の作品も、破壊されていった。

そんな矢先、かつては同士であり、今は、離れて暮らしていた妻のカタジナ・コブロが病死した。彼女は、ポーランドを代表する有名な彫刻家だった。争議に参列したのは、母と暮らしていた娘ニカ(ブロニスワヴァ・ザマホフスカ)だけだった。貧しくて喪服を持っていないニカは、町ゆく人から白い目で見られながらも、たった一枚の赤いオーバーを着て棺の後を墓に向かった。ニカもまた、貧しさの中で孤独だった。

残像
(C)2016 Akson Studio Sp. z o.o, Telewizja Polska S.A,
EC 1 - Lodz Miasto Kultury, Narodowy Instytut Audiowizualny,
Festiwal Filmowy Camerimage-Fundacja Tumult All Rights Reserved.


 

少しでも体制に逆らえば、そこからあらゆる道が次々と閉ざされ、食べること、命をつなぐこともできなくなっていきます。ヴワディスワフ・ストゥシェミンスキが生きる場を失っていく姿は、キリシタンの迫害を見るようでした。ヴワディスワフ・ストゥシェミンスキの最後は、ことばもなく悲しい姿ですが、映画を終わっても、彼の自分を大切にする裏表のない生き方が問いかけてきます。自分の思いとは違うのに体制におもねてパンをもらって命をつなぐいで生きても、果たしてそれで自分の人生を生きていると言えるのか。ヴワディスワフ・ストゥシェミンスキの生き方は、「一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままである。だが、死ねば、多くの実を結ぶ」(ヨハネ12・24)という聖書のことばを示しています。


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