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幸福なラザロ

2019年4月

HAPPY AS LAZZARO

 幸福なラザロ

  • 監督・脚本:アリーチェ・ロルヴァケル
  • 音楽:ピエロ・クルチッティ
  • 出演:アドリアーノ・タルディオーロ、アニェーゼ・グラツィアーニ、アルバ・ロルヴァケル、ルカ・キコヴァーニ、トンマーゾ・ラーニョ、ニコレッタ・ブラスキ
  • 配給:キノフィルムズ、木下グループ

2018年 イタリア映画 127分

  • 第71回カンヌ国際映画祭脚本賞受賞
  • 第54回シカゴ国際映画祭最優秀作品賞(ゴールド・ヒューゴ賞)
  • 第90回ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞外国語映画トップ5選
  • NYタイムズ紙 2018年ベストテン 5位

タイトルにある「ラザロ」は、新約聖書に出てくる人物です。ベタニアという村に住んでいる姉妹マルタ、マリアの兄弟で、イエスは、彼らと親しくしており、彼らの家に行くとリラックスできるようでした。ある日、病気にかかったラザロが亡くなります。旅に出ていたイエスは、ラザロが病気で亡くなったと聞き駆けつけます。「あなたがいれば、ラザロは死ななかったでしょう」というマルタに対して、墓の前に行ったイエスは「ラザロよ、出てきなさい」と言い、亡くなって4日を経ていたラザロをよみがえらせます。聖書には、ラザロの人物について何も書かれていません。しかし、近所の人々がラザロの墓の前で悲しんで泣いている姿を見て、イエスも涙したという記述があり、ラザロがどれほど人々から慕われていたかがわかります。イエスも、ラザロが大好きだったことでしょう。


物語

そんなラザロをイメージした映画「幸福なラザロ」に登場するラザロ(アドリアーノ・タルディオーロ)は、イタリアの小さな村で寡黙に働く貧しい農夫です。たばこ農園の小作農家たちの間で働いていますが、ひとりぼっちのラザロは彼らに都合よく使われているほとんどしゃべらない青年です。いつも薄汚れた服を着て、暑いときも、雪が降る寒いときも同じ格好です。いつも、目を見開いています。悪く言えば小作人たちにこき使われており、よく言えば、子どもから高齢者までが安心して彼を受け入れ、なんでも頼める若者です。村人たちの輪の外側にいて、目立たちません。小間使いのように働き、危険で、体力を必要とする汚くきつい仕事をさせられています。ラザロは、だれから頼まれても、快くすぐ行動します。

しかし、この小作人たち、実は、世間ではすでに小作人制度が廃止されているにもかかわらず、彼らの主人である侯爵夫人にだまされて、何も知らずに、たばこの葉の収穫のために働かされていました。

 幸福なラザロ
(C) 2018 tempesta srl・Amka Films Productions・Ad Vitam Production・
KNM・Pola Pandora RS・Radiotelevisione svizzera・
Arte France Cinema・ZDF/ARTE


ある日、町から、侯爵夫人のどうしようもないどら息子・タンクレディー(青年:ルカ・キコヴァーニ、大人:トンマーゾ・ラーニョ)がやってきます。ある事件をとおして、タンクレディーは身分の違いにもかかわらずラザロと親しくなり、「俺たちは兄弟だ」と言うようになります。

 幸福なラザロ
(C) 2018 tempesta srl・Amka Films Productions・Ad Vitam Production・
KNM・Pola Pandora RS・Radiotelevisione svizzera・
Arte France Cinema・ZDF/ARTE


ラザロの隠れ家に身を隠したタンクレディーに食料を届けようとしたラザロは、足を滑らせて谷底へ落ちてしまいます。一方、タンクレディーがいなくなったことを心配した恋人の通報で、この村の労働搾取問題が世間に知られるようになり、村人たちは自分たちの置かれた状況を知り、みな一緒にこの村を離れることにしました。

谷底に落ちたラザロと、都会に出て行った村の人々は、その後劇的な出会いをします。死んでから4日目に復活したラザロのように、谷底で意識を失っていた青年ラザロが起きて歩み、目にしたものは……。

 幸福なラザロ
(C) 2018 tempesta srl・Amka Films Productions・Ad Vitam Production・
KNM・Pola Pandora RS・Radiotelevisione svizzera・
Arte France Cinema・ZDF/ARTE


 

人のいいなりになっているように見えるラザロ。しかし、彼の目から見ると、いろいろなものに振り回されて、心を動揺させている人間は、こっけいに見えているかもしれません。

雇う人と、雇われて働く人。搾取する金持ちと、働いても働いても食べるものにも事欠き搾取されるだけの貧しい人。都会の生活と田舎の暮らし。文句ばかり言う人と、黙って働く人。そんな渦巻く社会の中で、ラザロはぶれることなく自分の生き方を貫いています。

ラザロを見ていると、宮澤賢治の、あの有名な詩が浮かんできます。

雨にも負けず
風にも負けず
雪にも夏の暑さにもまけぬ
丈夫なからだをもち
欲はなく
決して怒らず
・・・・
みんなにデクノボーとよばれ
ほめられもせず
くにもされず
そういうものに
わたしはなりたい

もしかしたら、これは、イエスの姿なのかもしれません。


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