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花のあとさき ムツばあさんの歩いた道

2020年 6月

 花のあとさき

  • 監督・撮影:百崎満晴
  • 語り:長谷川勝彦
  • 出演:小林ムツ、小林公一
  • 配給:NHKエンタープライズ、新日本映画社
  • 配給協力:ウッキー・プロダクション

2020年 日本映画 112分


山の急な斜面を歩くムツさん。80歳を超えても大きな長靴を履き、まがった腰に手を当てて、しかし、しっかりとした足取りで慣れた山道をどんどんあがっていきます。ここは、埼玉県秩父市吉田太田部楢尾。秩父の山奥の、ほとんど人が住んでいない小さな集落です。ムツさんは周囲の山を眺めながら、近くの畑の周りに植わっている木を眺めながら、花々に「か~わいいよぉ~」と口癖になっている言葉を投げかけます。小さな顔は、柔らかい肌で目がニコニコしています。

 花のあとさき


ムツさんが公一さんに嫁いだのは昭和25年、26歳のことでした。9人家族の中に入り、嫁いだ日から段々畑を上り下りし、時には山菜を採り、養蚕のために桑の葉を籠に入れて背負い、炭焼きのために薪を運びました。斜面を歩く毎日でした。

かつては段々畑が広がっていた農村ですが、道路ができて町に行くことが便利になった反面、みんなが町の会社に勤めるようになり、畑は枯れていきました。イノシシが畑を荒らすようになりました。しかし、ムツさんはイノシシがかわいそうだといいます。杉の木が植えられると、動物が食べる木の実がなる木がなくなり、イノシシたちが食べ物を求めて里に来るようになったからです。

天皇陛下が植樹祭をされたのだからと、自分たち夫婦も木を植えることが当然だと続けてきた植林ですが、建築ブームを終えると、安い材木が海外から輸入されると利用されなくなり、山が荒れてきました。しかし、ここは水源だからと手入れをし、山を守ってきました。また二人は、人がいなくなっても花を咲かせる木を植えてきました。運転手の方々に楽しんでもらいたいと、道路の道端にアジサイの花を夫婦で植えました。「花を咲かせて山に返したい」。

 花のあとさき


楢尾では、残った村の住人は5人になってしまいましたが、それでも集まって山の神の祭りを続けました。江戸時代にできたという獅子の頭をかぶって舞います。

山を愛し花を愛でたムツさんの生活や楢尾村での伝統を守る村人たちの様子が、「秩父山中 花のあとさき」というタイトルでNHKから放送されると、多くの反響があり、ムツさんの花を見たいと、楢尾を訪れる人が増えました。

ムツさんの志は、息子たちやムツさんの花を愛する人々に、秩父を訪れる人々の心に伝わっています。

 

「花のあとさき ムツばあさんの歩いた道」は、NHKで放送されたドキュメンタリーシリーズ「秩父山中 花のあとさき」を映画化したものです。そこには、18年におよぶ花と山をこよなく愛したムツさんの心が描かれています。「みんなに見てもらえて、うれしいよぉ。」ムツばあさんの声が聞こえてきます。


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