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本が作るコミュニケーション「子どもの本の現場から」

2007/11/22

東京新聞の「こどもブックワールド特別企画」として、「本が作るコミュニケーション 子どもと本の現場から」というトークセッションが、11月17日(土)に開催されました。子どもたちの本離れという危機感から、各クラスで「朝の読書」が行われるようになり、多くの学校で実施されるようになりました。現在、子どもたちと本の関わりはどうなっているのでしょうか。


会場の、中央区佃の共同通信社

第一部では、子どもと接する世界で活躍しておられる3人の講師のトークセッションが行われ、第二部では「3人がおすすめする、とっておきの本」が紹介されました。

集まっていらっしゃる方は女性が多く、若いお母さん、読み聞かせや、子どもと関わる現場で働いていらっしゃる方で、みな真剣にお話を聞き質問も活発でした。


第一部:トークセッション 「子どもと本の現場から ~いま、必要とされること」

講師:岩間建亜氏クレヨンハウス副社長
広瀬恒子さん親子読書地域文庫全国連絡会
とよたかずひこ氏絵本作家


左から、岩間氏、広瀬さん、とよた氏


広瀬恒子さん

広瀬さんは、1968年に、お子さんと遺書に地域の親子読書会に関わったことがきっかけで、広く読書活動に関わっていくようになりました。1970年に、親子読書地域文庫全国連絡会の結成に参加し、長い間事務局のお仕事をし、現在は同会の代表として活躍なさっています。


とよたかずひこ(豊田一彦)氏

2人のお嬢さんの子育てを通じて、絵本の創作をはじめるようになりました。また、絵本作家として活躍する傍ら、全国各地で読み聞かせや講演会もなさっています。


岩間建亜(いわま たけつぐ)氏

1976年に、落合恵子さんが主宰している「クレヨンハウス」の創業に参加し、お店作りに関わっています。クレヨンハウスが出版する絵本の編集をはじめ、雑誌「月刊クーヨン」や「月刊子ども論」の編集長としても活躍されました。現在は「クレヨンハウス」副社長として活躍なさっています。

広瀬:

「子ども読書年」の後にこの活動に入った1970年代と、1990年代から後の今までとは、子どもと読書の世界はとても変わってきている。変換期に入ったと思う。当時は情報を得るのが大変困難だったが、今はインターネットで簡単にいろいろな情報を集めることがでる。

1990年代から本、本と言われだしたが、1980年代から子どもたちの状況が息苦しいものになってきた。子どもたちの人と人との関わり、コミュニケーションをどう豊かにできるかが問題になっている。子どもたちに言葉の力をいかに身につけるかが課題だ。1993年に出版産業界では読書推進運動が展開されたが、本は売れなくなってきている。

岩間:

クレヨンハウスでは、作家別の棚作りをしてみた。まだ一年しか経ていないので、よいのかどうか分からない。子どもは作家にこだわっていない。作品にこだわっている。絵本は子どものためのものではなく、最近は、若い女性が絵本を手にする。とよたんさんの絵本を、今まで赤ちゃんコーナーだけに置いていたが、赤ちゃんだけでなく、若い人も読むかもしれないと思った。

広瀬:

2000年ころに比べると、子どもが本と出会う場は広がったと思う。「朝の読書“アサドク”」は、学校で90%まで行っていると思う。東販がすすめている「家庭内読書“ウチドク”」がある。中高生たちは本を読んでいない。しかし、本当の意味で読んでいるかいないかを把握するのは難しい。読む子は読むが、読まない子は全く本を手にせず、“二極化”している。だが、「本はきらい」と答える子は少ない。幼年童話までは、絵本を手にとるお母さんが多く、層が広がっている。

質問:

学校で本の読み聞かせをしているが、高学年になると、どんな本を読んでいいか分からないという子が多い。そういうとき、どうしたらいいか?

広瀬:

「ブックトーク」という手法がある。いろいろな切り口から選んだ本の紹介である。しかし、いろいろ考えずに、自分が感動した本を紹介するのが一番だ。そのとき、「自分が読んで心に残っている。だから読みなさい」ではなく、その子が読みたくなるようにすることが大切だ。

岩間:

本を紹介するのは、危険な仕事でもある。熱を込めて紹介しても、その子が本を好きになるかどうかは分からない。その子の反応を見る必要がある。そうしていかないと、それをきっかけにしてその子はどんどん嫌いになってしまうかもしれない。「あなたの選んでくれた本、子どもがすっごく喜んだよ」と言われるのが、本屋冥利につきる。

クレヨンハウスでは「絵本ガイド」という冊子を出している。これは“最大公約数”の絵本を紹介しているものだが、ベストテンというものは発表しないようにしている。ベストテンに入った本を買って子どもたちに与えた場合、その子がその本を読まないと、「うちの子は、おかしいんじゃないか。みな読んでいるのに……」ということになったら困る。それでベストテンはやめにした。

質問:

子どもの読み聞かせをしているが、最近はデーサービスで読み聞かせをした。最初は昔を懐かしんでもらおうと日本昔話のようなものを読んでいたが、おもしろくなさそうなので、あるとき、とよた氏の本「電車に乗って」を読んでみた。「ガタン、ゴトン」という言葉のところで、聞いている高齢者の方々の表情が柔らかくなった。響きがいいようだ。

広瀬:

高齢者の読むのは、昔話的なものを持っていきがちだが、そうではないようだ。自然科学の本も喜ばれる。対象を限定して本を作ると、よくない。表紙の裏に書いてある「○歳向け」というのは、よくないと思う。

とよた:

読書は個人的な歩みである。一人ひとり、好きな本は違って当然である。楽しんでもらえればよい。

質問:

学校の先生など、教育者の読解力はどうなっているのか?

広瀬:

先生たちは、どうしてこんなに忙しくなってしまったのか。一人ひとりの先生が、出版された膨大な本の中でそれらを把握していくのは大変なことである。先生たちには、教科を教えるという本来の仕事があるのだから、本の案内役という専門職的な人が紹介する方が効率的である。

質問:

これからの子どもの本の世界は明るいか?

岩間:

1970年代には36,000店の本屋さんがあったが、今は16,000店しかない。しかし床面積は増えている。つまり大型店が増えたが、家族経営のような本屋がなくなったということだ。これは、まずいなと思う。インターネット上の本屋、amazon.comのようなお店も活発になっている。しかし、実際に本を手に取り見てから買ってほしいと思う。

図書館で子どもがよく読んだ本は、買ってあげて、家出も読めるようにしてほしい。

広瀬:

学力テストで、読書している子の方がよい結果がでたが、それは次の段階では、「「学力を上げるために本を読もう」ということになると困る。「楽しむ」から離れてしまう。

第二部:レクチャー 「3人がおすすめする とっておきの本」


絵本を紹介する3人

岩間氏の紹介した本

・『ぎゅっ』(徳間書店)

子育てには「ぎゅっ」が大切である。「団らん」の時間が足りないと思う。食事をいっしょにする、小さいときに団らんの時間をどれだけ過ごしているだろうか。

・『おならうた』(絵本館)

読書のためには、親が読むのが一番である。ユーモアのある本は、今の時代、大切だと思う。

広瀬さんの紹介した本

・『としょかんライオン』(岩崎書店)

図書館での時間が、幸せなときを過ごすひとときでありますように、そんな温かさを感じる本だ。

・『ルリユールおじさん』(理論社)

着想がおもしろい。本はつないでいくもの。小さいときに、かけがえのない一冊を持つことが大切だ。一冊の本をいとおしく感じること。

とよた氏の紹介した本

・『高等地図』(日本書院 絶版)

手書きの地図で、眺めているだけで想像力をかき立てられる。

・『わたしとあそんで』(福音館書店)

なんてことはない話だが、ひかれる。読むたびに、魅力とおもしろさが深まる。


小さいときに本と出会うことは、本当に大切なことです。昔も今も、子どもたちは、読み聞かせが大好きです。目を輝かせて本を見ながら聞いています。そんな子どもたちの心が、そのまま育っていきますようにと願います。子どもたちのことを考えているお母さんたち、地域の人々の働きが人と人の絆を深め、豊かさとなりますように。

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