home >キリスト教入門> 山本神父入門講座> 5 .悪霊との戦い

山本神父入門講座

INDEX

5. 悪霊との戦い

イエスの特色は権威と力である。「イエスはガリラヤの町カファルナウムに下って、安息日には人々を教えておられた。人々はその教えに非常に驚いた。その言葉には権威があったからである」(ルカ4章31~32節)。イエスの権威と力を特に強く感じたのは悪霊である。

福音書には、よく「汚(けが)れた悪霊につかれた人」(悪魔つき)が出てくる。悪魔つきは、罪を犯して道徳的に悪霊の支配下にある罪人ではなく、病気や心身の異常を引き起こす悪霊に取りつかれ、悪霊に操られ、人間全体が機能麻痺(まひ)を起こした状態である。イエスの時代には、悪魔祓(ばら)いで生計を立てる人も存在した。


あるとき、イエスが入った会堂に、汚れた悪霊に取りつかれた男がいた。彼は、イエスを見るや否や、大声で叫んだ。「ああ、ナザレのイエス、かまわないでくれ。我々を滅ぼしに来たのか。正体は分かっている。神の聖者だ」(ルカ4章33~34節)。

悪霊は、イエスに追い出されること、彼の前にまったく無力であることを感じて、「敗北宣言」をしたのである。

イエスは命令した。「黙れ。この人から出て行け」。すると、悪霊はその男を人々の中に投げ倒し、何の傷も負わせずに出て行った(ルカ4章33~35節参照)。イエスが悪霊の支配を打ち破った瞬間である。


イエスは職業的な祓魔(ふつま)師でも医者でもなかった。悪魔祓いの儀式をしたわけでもない。そのイエスが、ただ一言で、悪霊につかれた男から悪霊を追い出し、その男を解放し、いやした。神の権威と力である。神の権威と力を帯びて、イエスが悪魔つきをいやしたのである。悪霊の支配を打破したのである。

「人々は皆驚いて、互いに言った。『この言葉はいったい何だろう。権威と力とをもって汚れた霊に命じると、出て行くとは。』こうして、イエスのうわさは辺り一帯に広まった」(ルカ4章36~37節)。

イエスは、悪の支配から人を解放するメシアである。いやしはその解放のしるしである。イエスは会堂から、シモン(ペトロ)の家に行き、しゅうとめの熱病をいやし、人々が連れてくるいろいろな病人の一人ひとりに、手を置いていやした。そこでも悪霊がわめき立て、「お前は神の子だ」と言いながら、多くの人から出て行った。イエスは悪霊を戒めて、ものを言うことをお許しにならなかった。悪霊は、イエスをメシアだと知っていたからである。


イエスは、自分がメシアであるということが広まらないように望んでいた。ユダヤ人の待望していたメシアは、イスラエルの支配を回復する、偉大な王、政治家、武将であったから、イエスをメシアとして担(かつ)ぎ出し、政治的な動きをするような危険もあったからである。

カファルナウムの人々は、イエスがよそへ行かないように引き止めた。「しかし、イエスは言われた。『ほかの町にも神の国の福音を告げ知らせなければならない。わたしはそのために遣わされたのだ。』そして、ユダヤの諸会堂に行って宣教された」(ルカ4章42~44節)。

イエスは特定の町や村の「専属医師」や「お抱え祓魔師」にされることを警戒していた。イエスは、すべての人に神の国の福音を告げ、すべての人が、悪の支配から解放されて、神の国へ導かれるために来たメシアだからである。


▲ページのトップへ