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山本神父入門講座

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50. 律法問題とアンティオキア教会の台頭

聖ペトロと聖パウロ
聖ペトロと聖パウロ

サウロの回心はあちこちに影響を与えた。ダマスコから脱出したサウロはエルサレムに来たが、すぐ弟子の仲間に受け入れられたわけではない。有力者バルナバの紹介で、「サウロはエルサレムで使徒たちと自由に行き来し、主の名によって恐れずに教えるようになった。」のであるが、ヘレニストたちはサウロを殺そうたくらんでいた。「それを知った兄弟たちは、サウロを連れてカイサリアに下り、そこから故郷タルソスへ出発させた」。しばらくサウロの活動は停止する。

当時の教会の状況を使徒言行録は次のように書いている、「こうして教会はユダヤ、ガリラヤ、サマリアの全地方で平和を保ち、主を畏れ、聖霊の慰めを受け、基礎が固まって発展し、信者の数が増えていった」(使徒言行録 9章20-31節)。


このような発展のなかで、神は、幻をとおして使徒の頭ペトロに律法問題について重大なことを教えられた。

それは、カイサリアにいた「イタリア隊」の百人隊長、異邦人コルネリウスが見た幻ではじまった。その幻のなかで天使が言った。「あなたの祈りと施しは、神の前に届き、覚えられた。今、ヤッファへ人を送って、ペトロと呼ばれるシモンを招きなさい。その人は、革なめし職人シモンという人の客になっている」。 コルネリウスはすぐに三人の使いを送った (使徒言行録 10章1-8節)。 翌日、ペトロも幻を見た。「ペトロは我を忘れたようになり、天が開き、大きな布のような入れ物が、四隅でつるされて、地上に下りて来るのを見た。その中には、あらゆる獣(けもの)、地を這(は)うもの、空の鳥が入っていた。そして、『ペトロよ、身を起こして屠(ほふ)って食べなさい。』と言う声がした。しかし、ペトロは言った。『主よ、とんでもないことです。清くない物、汚れた物は何一つ食べたことがありません』」。

レビ記(11章1-47節)には食べてよいもの (清いもの) と食べてはいけない (汚れたもの) を細かく定めた食物規定がある。ペトロは律法に忠実なユダヤ人として、それを破ることはできないと言った。「すると、また声が聞こえてきた。『神が清めた物を、清くないなどと、あなたは言ってはならない。』こういうことが三度あり、その入れ物は急に天に引き上げられた」(使徒言行録10章9-16節)。ここで神はユダヤ人の食物規定、および、異邦人との交際と会食禁止が無効にされていることを宣言されたのである。

短いが密度の高い幻である。その意味をとらえようとペトロが幻のことを思い巡らしていた。そのとき三人の使いが着き、「ペトロと呼ばれるシモンという方が、ここに泊まっておられますか」と聞いた。“霊”が、ペトロに言った。「三人の者があなたを探しに来ている。立って下に行き、ためらわないで一緒に出発しなさい。わたしがあの者たちをよこしたのだ。」ペトロが降りて行くと、三人は説明した。「百人隊長のコルネリウスは、正しい人で神を畏れ、すべてのユダヤ人に評判の良い人ですが、あなたを家に招いて話を聞くようにと、聖なる天使からお告げを受けたのです。」ペトロは彼らを泊まらせ、翌日一緒に出発した。

コルネリウスに迎えられて大勢の人の前に立ったとき、ペトロは言った。「あなたがたもご存じのとおり、ユダヤ人が外国人と交際したり、外国人を訪問したりすることは、律法で禁じられています。けれども、神はわたしに、どんな人をも清くない者とか、汚れている者とか言ってはならないと、お示しになりました。それで、お招きを受けたとき、すぐ来たのです。お尋ねしますが、なぜ招いてくださったのですか」。コルネリウスは幻のことを説明した (使徒言行録10章17-33節)。 それを聞いたペトロは言った。幻からペトロは神の教えをつかんでいた。「神は人を分け隔て(わけへだて)なさらないことが、よく分かりました。どんな国の人でも、神を畏れて正しいことを行う人は、神に受け入れられるのです。神がイエス・キリストによって―この方こそ、すべての人の主です―平和を告げ知らせて、イスラエルの子らに送ってくださった御言葉を、あなたがたはご存じでしょう....」 (使徒言行録10章34-43節参照) 。

ペトロがイエスの生涯、受難、死、復活などについて話し続けていると、「一同の上に聖霊が降った。割礼を受けている信者で、ペトロと一緒に来た人は皆、聖霊の賜物が異邦人の上にも注がれるのを見て、大いに驚いた。異邦人が異言を話し、また神を賛美しているのを、聞いたからである。そこでペトロは、『わたしたちと同様に聖霊を受けたこの人たちが、水で洗礼を受けるのを、いったいだれが妨げることができますか』といった。そして、イエス・キリストの名によって洗礼を受けるようにと、その人たちに命じた (使徒言行録10章44-48節) 。

聖ペトロと聖パウロ
聖ペトロと聖パウロ

神は幻だけでなく、まだ洗礼を受けていない異邦人に直接に聖霊を授けるということで、異邦人とユダヤ人との関係が変えられたことを示された。信者はユダヤ人と一緒で、異邦人は別だと考えていた人たちは衝撃を受け憤慨した。

そこで、「ペトロがエルサレムに上って来たとき、割礼を受けている者たちは彼を非難して、『あなたは割礼を受けていない者たちのところへ行き、一緒に食事をした』と言った」。一種の尋問であるが、ペトロは幻を含め、起こったことを順序ただしく説明した。「この言葉を聞いて人々は静まり、『それでは、神は異邦人をも悔い改めさせ、命を与えてくださったのだ』と言って、神を賛美した」(使徒言行録11章1-18節)。 ペトロが見た幻の成果は何とかこの人々には伝わった。


ステファノの事件をきっかけにして起こった迫害のために、散らされた人々はあちこちへ散って行ったが、アンティオキアで信者が多くなっていった。そのことを知ったエルサレムの教会は、バルナバをアンティオキアに派遣した。バルナバは、故郷タルソに帰っていたサウロを捜しに行き、「見つけ出してアンティオキアに連れ帰った。二人は、丸一年の間そこの教会に一緒にいて多くの人を教えた。このアンティオキアで、弟子たちが初めてキリスト者と呼ばれるようになったのである」(使徒言行録11章19-26節)。

サウロの復帰後、アンティオキアの教会はパウロ(サウロ)とバルナバを中心さらに発展する。そして、ペトロを中心にしたエルサレムの教会との交わり、対話、協力をとおして教会全体がさらに大きく成長する。そのような構図のなかで、律法、異邦人問題はエルサレムの使徒会議で決着を見ることになる。


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